花月暦

日本の文化・歳時記研究家の広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたのエッセイ。

第七十四話 「一月 小寒 大寒」

2023.01.06

life

寒の中

このあたりでは年末からお正月頃になると、決まっての真冬の強い西風が道に積もっていた枯れ葉をすっかり吹き飛ばしてしまいます。

強い風は台風クラスの時もありますから、用心しなければならない時もあるのですが、嵐の後はまるで誰かが隅々まで掃除をしたかのようにすっかり清められ、きもちのよい場所になります。

強風が続いたあとに、清々しさを感じる理由は、単純に枯れ葉などばかりでなく、目にはみえない迷いやにごりのある気持ち、そしてよどんだ気配まで風がどこかに連れ去ってくれるから。
そこに雪までちらついたなら、誰もが清らかな空気に包まれて、つい古い年から持ち越してしまったもう必要のない気持ちも、雪解けとともにすうっと消え、新しいかたちにきっと生まれ変わることでしょう。

そうした空気と合わせて1月は一年を無事に幸せに生きる力を運んできてくれるという年神の力を存分にいただきたいもの。
冷たい空気を、胸いっぱいに時折、吸い込んで次に歩いていくための力をいただきます。

さて、二十四節気も「寒」の時期を迎えて一年で最も寒い季節となります。
厳しい季節の中で咲く花は少なくなる一方で、ひとつひとつの花に寄せる気持ちは強くなるものです。

秋のうちにつぼみをつけていた枇杷の花、水仙、椿、梅は、やわらかさをまといつつも、厳しい季節に咲く花らしく、佇まいには揺るぎのない安定感があります。

そうした冬の花の枝や花びらに触れ、香りを楽しみながら、寒く厳しい冬、そしてどんな中にあっても、よく楽しみ、自分の道を歩けますようにと願いを込めつつ、しつらいや花に心を映しかたちにしてまいりたいと思います。

 

お手かけ

お手かけは蓬莱、くいつみなどとも呼ばれるお正月飾りの一つです。
いろいろなかたちがあるものですが、今年は三宝に奉書を敷き、お米を山型に入れて縁起のよい菊炭を置きました。
そこに松を立てて、後光にみたてた隈笹を。
難を転じるよう願いを込めて南天の葉、邪気払いの赤い実を。
最後に橙をのせて、あらゆる場で続いてきた豊かな和が代々続きますよう願いを込めました。

もともと、おてかけをしつらうのは、年始のご挨拶の際に玄関に飾り、来客にお手をかけてもらうことで今年も同じ食べ物を食べて心置きなく幸せに新しい年もご一緒してまいりましょうという意味がありました。

 

初咲きの梅に蛇の目松

厳寒の中で早々と綻びはじめた初咲きの梅。
班入りの松、蛇の目松と合わせて暖をとるための手あぶりに入れてみます。
寒さ極まる時、となりますが、極まるということは、隣には春があるということ。

冬から春へと移り変わる時は四季折々、一年の中でも最も大きな変化の時です。
大きな変化の時こそ、必要なのは力を抜きすぎず、拘りすぎない、ちょうどいい力の入れ具合でしょう。

堅い梅の蕾が綻ぶがごとく、ふんわり、そしてどっしりと揺るぎなく豊かな気持ちとともに歩くためにも日々、花とともにいて、その姿からあらためてよく教えていただこうと心新たにしています。

 

広田千悦子

文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

『花月暦』

『にほんの行事と四季のしつらい』

広田千悦子チャンネル(Youtube)

写真=広田行正