第七十九話 「六月 芒種 夏至」
2023.06.06
暮life
折り目の花
夕暮れになるとどこからともなく甘い空気が流れてまいりました。
蛍が各地で舞いはじめるようになり、夜空の星と蛍の光を見間違う頃。
新しかった一年も半年目に入ります。
古の時代から自生しているチガヤも花穂をつけて風に揺れています。
今年も折り目の月を迎えました。
さて、例年よりもひんやりとした日が多かった五月を後にして今年の六月はどんな月となるでしょうか。
のぼり藤など、高音多湿が苦手の草花が元気がよいとまるで高原に出かけたような気分になるものです。
けれどもそろそろ湿気に備えなければなりません。
段々と高くなってきた湿度を乗り越えてもらうために、たとえば植物は蒸れないように手入れをしたりしますが、自分も水分を取りすぎないようにするなどして、植物と同じように整えるのが必要な季節となります。
水無月(みなづき)という六月の呼称ももともとは「水の月」という意味。
六月の行事や習わしには水にちなむものが多くあり、水神祭や海水に身をひたし清める習わしなどが見られます。
茅の輪潜りが話題になる夏越の祓えは半年に一度という巡りの中で、邪気や災いを払い古いものを刷新し、人間も再生する意味があります。
草木花は適切な節目に手入れをしてあげたりあるいは自然とよい巡りになるような場で育てば美しい花を咲かせたり、たくさんの実がなります。
それと同じように人も生き物も、季節の節目に寄り添うように整える工夫があれば一人一人持っている力を今世で存分に発揮できるのだと思います。
草木花を楽しみ、行事とともに暮らす日々はそのちょうどよい道しるべ。
楽しみながら存分に生きるための旅の地図でもあります。
茱萸の供物
たわわに実る茱萸(ぐみ)の枝を大きな瓶子に入れて。
先人が植えてくれていた大きな茱萸の木が今年もたくさん実をつけました。
毎年、知人に分けても、鳥が食べにきてもなくならないほどの実り。
それがどれほど豊かで嬉しいことかを、と毎年教えてもらいます。
茱萸と空と土と季節の力が本当にありがたいと思いながら入れるとすっと真っ直ぐな供物となりました。
茅の輪守り
茅を左縄に綯い、茅の輪守りに。
蘇民将来の札を下げ、的のように新緑の笹竹を入れます。
茅の輪をつけていれば蘇民将来の子孫だという印になり、災いや疫病を避ける力があると信じられてまいりました。
この札を下げるとどんな子孫であるべきか、自分に問いかけています。
どうぞ新しく迎える半年がよい日々でありますように。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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