第八十二話 「九月 白露 秋分」
2023.09.08
暮life
夜仰ぐ月
季節はひと月でがらりと変わる、そういう時があります。
八月から九月もその一つ。
今年のように厳しい残暑が続いているような年であってもその変化は訪れています。
たとえば、いつの間にか斜光になり手をかざしたくなるような眩しい太陽に。
夜になると大きく響くようになった虫の音に。
さえざえとしている夜空の星々をふと見上げる時に。
いたるところに秋の訪れがあります。
そして私たちはこの大きくうつりゆく季節と自らの日々の暮らしや人生のゆくえを重ね、思いを巡らせています。
秋とはそういう気持ちを引き出すような力を持つ季節です。
実りを迎える季節であると同時にひとめぐりを終えて一旦、土に帰るもの、眠りを迎える前に力を蓄えるもの。
新しいはじまりのために心身を鎮めていく時でもあります。
賑やかだった夏がなごり惜しく、まだ遊び足りないこどものような気持ちになる時でもありますが、手放すことで新たに出会うこと、手放してはじめて受け取ることができるものがあります。
暑さが鎮まるのとともに新しいめぐりへと旅立っていく。
夜、仰ぎ見る月の光もその旅立ちを支えていてくれるかのように輝いています。
枯れ蓮と仙人草
乾きはじめた蓮の葉を仏具にそっと置き、水を張り、仙人草の花を挿れました。
枯れはじめて、くるりと巻きの入る蓮の葉の青々とした緑と裏葉の枯れ色の取り合わせ。
秋と夏の行き交いのかたちに盛りを迎えた花がよく似合います。
そばで眺めていると潤いをたくわえた水の趣も心地よく場を清めてくれます。
彼岸の花供物
白い瓶子にお彼岸の花を仕込みました。
棕櫚の葉のなごりは太陽の祭り、お日願にお供えするための後光に見立てたもの。
高野槙、女郎花、白竜胆、鬼灯など。
色、かたち、由縁など、光とご縁のある草木花を寄せてお彼岸の花供物としました。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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