第八十三話 「十月 寒露 霜降」
2023.10.08
暮life
秋深し
秋深し。
じりじりと続いていた夏は急に去り、季節の運びは早回しになってまいりました。
激しい季節から鎮まる季節へ。
春以来の穏やかな気候がようやく戻ってきて気分的にはほっとしているところ。
その一方で私たちの身体や草木たちは、というと、この大きな季節の変化を乗り越えよう、整えようと頑張っています。
気候は涼しく動きやすくなり、暑い時にはなかなかできなかったことを頑張らなくてはと焦る人もいるかもしれません。
けれどもこの時期は無理をすると弱いところに症状が出がちな季節です。
養生する時期なのだと教えてくれています。
大きな変化を自分らしく乗り越えていくためにはほんのひとときだけでも、ゆっくりと過ごす時間をつくり、自分を応援する時間が必要です。
忙しくてなかなか時間が作れないという人も眠る前の深い呼吸なら難しくありません。
焦りがある時、忙しい時ほど息を吸い込む量が多くなっているものです。
あまりあるほど吸い込んだ空気を少しずつ静かにはきだしていけば、それと一緒に、必要以上の心配事も迷いも出ていくものです。
緊張は解けてゆるみ、自分に優しくしようという気持ちが自然と湧いてくるものです。
そのゆっくりとしたリズムを覚えておき、日中に草木のあるところに佇めば、いつもと違う景色が見えてまいります。
深まる秋の訪れとともに変わる葉の色、散る花、届く香り。
日々の中にある草木花や季節と気持ちを通わせながら、秋の深まりを楽しんでいくことができればと思います。
着せ綿の菊花供物
阿房宮の花を三宝に積む。
絹の綿帽子をかぶせたら秋の深まりを告げる菊の葉を添えて旧暦の菊の節供の月の御供物に。
目に身体に染みてくるのは鮮やかな黄色と菊の香。
お供えしたあとの直会には菊からはずした絹の綿で肌を拭います。
植物と色と季節の力と心を合わせて過ごすひとときに。
独活の秋
深まる秋の最中に背をのばしその頂に花火のような花を灯しているのは独活。
伸びゆくままの自在な姿を仏具に入れました。
香り高き山の幸として人間に恵みを授けた春は遠くに過ぎて夏を過ぎ、背を高く伸ばす独活の秋。
急激な気温の変化に縮らせた葉のかたちにも時を重ねた趣があるものです。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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