二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第九十六話 秋分の花絵「荻」

2022.09.23

life


2022年9月23日から二十四節気は「秋分」に

昼と夜の長さがほぼ等しくなる日です。ここから冬至に向かって、日増しに夜が長くなっていきます。秋分と向き合うようにある節気が「春分」で、こちらは夏至に向かって昼が長くなります。
この二つの節気は太陽の動きを指し示し、一年を二つ分ける節目となることから「分」の字があてられています。

中秋の名月
旧暦(太陰太陽暦)8月15日に昇る月が「中秋の名月」別名、十五夜です。
現在のカレンダー(太陽暦/グレゴリオ暦)では、中秋の名月は毎年日付が変わり、秋分の節気の期間にあたることが多い行事です。
2022年は特に早く9月10日となり、満月と重なりましたが、中秋の名月は必ずしも満月というわけではありません。
月の満ち欠けをもとに作られた旧暦では新月を一日とした時の十五日目を満月としましたが、新月から次の新月までの周期には幅があり、新月を迎える時刻にも幅があるため、諸条件が重なるときだけが、満月の中秋の名月となります。
ちなみにこの数年で中秋の名月と満月が一致するのは2021年から2023年で、その次は2030年と、だいぶ先になります。


「荻」

□開花期:9月~10月
□学名:Miscanthus sacchariflorus
□分類:イネ科 ススキ属
□和名:荻、風聴草、寝覚草
□英名:Amur silvergrass
□原産地:日本、朝鮮半島、中国大陸など

荻とススキ
「荻(おぎ)」と「ススキ」はどちらもイネ科 ススキ属で、姿や生育環境もそっくり。とても見分けがつきづらい植物です。
その違いは湿り気のある場所に間隔をあけて生育するのが「荻」で、乾燥に強く、株として一か所で生育するのがススキです。
さらに、荻には穂にイネ科の特徴のひとつである「禾(のぎ)*」が無く、ススキよりも白に近い色をしています。また、鋭利な葉で手が切れるのがススキ、切れないのが荻ともいわれています。

*棘状の突起

荻窪
東京都杉並区の地名である「荻窪」も荻にゆかりのある場所です。
仏像を背負っていた行者がこの辺りを通りがかった際に急に仏像が重くなったため、運ぶことができず、窪地に繁茂していた荻を刈り取ってお堂を建てたことから付いた地名ともいわれています。


花毎の花言葉・荻「風の花束」

万葉集や古今和歌集では荻は秋風を表現することばとして歌に詠み、秋の到来やもの悲しさを表してきました。このようなことから荻の古名は「風聴草(かぜききぐさ)」ともいわれます。
一方、ススキは「尾花」と呼ばれ、おもに穂の姿を歌に詠みました。
詩歌に親しんだ人々は、とても似たこの二つの植物を「見えないもの」と「見えるもの」の情景を表すために使い分けていたようです。

さて、以前のススキがモチーフになった二十四節気の花絵では、奇しくもススキの光輝く穂をイメージして「光の花束」という花言葉を付けたことがありました。
そこで、今回の荻には古の人に習い、また、ススキと対をなすように「風の花束」という花毎の花言葉を託したいと思います。

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など