二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第百二話 春分の花絵「貝母」

2023.03.21

life


2023年3月21日から二十四節気は「春分」に

昼と夜の長さがほぼ同じになる日です。
ここから夏至に向かって徐々に昼が長くなっていきます。


季節の区切り
節気の名前に「分」が付く春分と秋分、「至」が付く夏至と冬至は「二至二分(にしにぶん)」と呼ばれ、天象に基づいた季節の区切りを表す節気です。
春分は春と夏の中心にあたり、昼と夜の長さがほぼ等分に。太陽が真東から上り、真西に沈みます。夏至は昼が一年で最も長く、秋分でまた昼と夜が等分になり、太陽の動きも春分と同じ動きに。そして冬至で昼が最も短くなるというサイクルを繰り返します。

春分の行事「お彼岸」
春分の日を中日とした前後3日間(2023年の場合は3月18日から24日)が春のお彼岸です。
彼岸はサンスクリット語が語源。お墓参りの習慣は、西の彼方に彼岸(極楽浄土)があると考えられ、真西に沈む彼岸の時に極楽浄土への生まれ変わりを願ったことが日本の仏教と結びついて現在の姿になったとされています。


「貝母」

□出回り時期:12月~5月
□香り: なし
□学名:Fritillaria verticillata var. thunbergii
□分類:ユリ科 バイモ属
□和名:編笠百合(アミガサユリ)、 天蓋百合(テンガイユリ)、母栗(ハハクリ)
□英名:Fritillary
□原産地:中国

球根性の多年草で、球根は漢方薬として、花は茶花に用いられる植物です。
貝母の名は球根(鱗茎)の形が一対の貝殻のような形をしていることから名付けられたといわれています。

貝母は万葉集にも詠まれるほど、古くから愛されている花で、万葉の時代には「母栗」「波波久里」などと表現されています。

 

時々の 花は咲けども何すれぞ 波波とふ花の咲き出来ずけむ

丈部真麻呂 巻20-4323
(万葉表記で母=波波)

 

(四季折々の花は咲くけれど、なぜ波波という名の花は咲かないのだろう)
母からの便りが届かないことに寂しさを募らせていることが詠われています。

野山では3月下旬ごろ、内側が網目模様の淡い黄緑の花を咲かせ、先端がカールした葉を隣り合う草に絡ませながら成長します。
その繊細な花や葉の姿から花のプロフェショナルにも人気の高い花です。

フリチラリア
貝母は広義の意味で「フリチラリア」とも呼ばれます。学名でもあるフリチラリアの仲間には切花としても出回る深い赤紫が美しい、西アジア原産の「フリチラリア・メレアグリス」や、北日本、サハリン、カムチャツカ半島といった寒冷地に分布する、山野草の「クロユリ」、中近東原産で草丈が1メートル近くにもなる「インぺリアリス」(和名ヨウラクユリ)など、世界中で約80~100種近くが存在。
特に「インぺリアリス」は長く伸びた茎の先に鮮やかで大きな花が固まって咲き、王冠のようにも見えることからこの名が付けられました。
また、この花は三大植物学者と呼ばれるレクリューズが16世紀後半にコンスタンティノープルからウィーンにもたらし、後に起こるチューリップバブルの咲きがけともいえるほど、高値が付いたそうです。


花毎の花言葉・貝母「静謐の美」

貝母の一般的な花言葉は「謙虚」などです。これは下向きに咲く姿から付けられたようです。
貝母が咲く時季は、チューリップや桜、ミモザといった鮮やかで華やかな花が一斉に咲き誇るころですが、そうした中でまるで周囲に溶け込むような色の花を、うつむいて咲かせる貝母はとても地味な存在です。
しかし、野山から屋内へその花を持ち込んでみれば、たちどころに存在感を表し、たった一輪が美しいと思わせる。

そんな貝母に花毎の花言葉「静謐の美」という言葉を贈りたいと思います。

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など