二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第百五話 芒種の花絵「マートル」

2023.06.06

life

 

2023年6月6日から二十四節気は「芒種(ぼうしゅ)」に

芒種の「芒(のぎ)」とは、稲や麦などの穂が出る植物を意味する言葉で、暦の解説書である『暦便覧』では「芒ある穀物、稼種する時なり」と記された、芒ある穀物の種のまき時を表した節気です。
そして、旧暦の暦でみてみれば、芒種は夏の半ばを表した仲夏の季節にあたります。
細やかに移ろう暦は、ひと足はやく季節を駆け抜けて行きます。

雑節「入梅」
芒種の期間である6月11日*は「入梅」という雑節**があります。
この入梅は梅雨入りの時期を示していますが、気象庁が例年発表する梅雨入りとは異なり、暦の上で田植えの日を決める目安とされている日です。

*2023年は6月11日ですが、年によって変動します
**雑節(ざっせつ)とは季節の変化を表す特別な暦日(れきじつ)のことで、二十四節気を補助する目的で作られたものです


「マートル」

□開花時期:5月~7月
□香り:あり
□学名:Myrtus communis L.
□分類:フトモモ科 ギンバイカ属
□和名:銀梅花(ギンバイカ)、銀香梅(ギンコウバイ)
□別名:ギンバイカ、ギンコウバイ、ミルテ
□英名:Myrtle
□原産地:地中海沿岸、ヨーロッパ南西部

アフロディテの象徴
マートルはギリシアやローマ神話で愛と美の女神アフロディテ(ヴィーナス)を象徴し、西欧諸国で神木とされてきた植物です。
古代ギリシアでアフロディテは崇拝の対象であり、儀式や祭りにマートルを用いてアフロディテを称え、愛と繁栄の象徴として使用されていたようです。
また、神話を題材にした絵画では愛や美の寓意や象徴として、しばしばマートルが描かれています。有名な作品では15世紀イタリアのルネサンス期に活躍したボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」や「プリマヴェーラ」ですが、これらの作品にもマートルの枝葉が描かれています。

英国王室とマートル
19世紀のイギリス女王である、ヴィクトリア女王もマートルを好んだ人物です。
1840年に行われた自身の結婚式当日に、結婚相手であるアルバート王子の祖母から贈られたマートルのブーケの枝(苗という説も)を、イギリス・ワイト島にある離宮オズボーンハウスで挿し木したものを娘たちのウェディングブーケに使用したそうです。
この伝統は今も受け継がれ、ロイヤルウェディングのブーケには必ずマートルが加えられています。

ハーブとして
葉や枝に香りがあり、料理や酒の香りづけに使用されます。イタリアではマートルの葉や果実を使ったリキュール「ミルト」が作れられています。
アロマオイル(精油)もあり、ユーカリなどに近しい清涼感のある香りは呼吸器系のケアに向くとされています。


花毎の花言葉・マートル「祝福」

一般的なマートルの花言葉は「愛」「愛のささやき」「高貴な美しさ」などです。
「愛」は愛と美の女神アフロディテに、「高貴な美しさ」は英国王室に由来すると考えられます。

マートルは日本での知名度はそれほどではないものの、西洋ではとても尊ばれている植物です。特に常緑の植物は世界各地で永遠を意味するものとして珍重されてきましたが、更に香りがあり、美しい花を咲かせるマートルは古代から現代においても特別な存在であることが伺い知れます。
また、ロイヤルウェディングのブーケには、枝葉が必ず加えられるという伝統も、この植物に託した愛や幸福への強い願いを感じることができます。
そんなマートルには愛という言葉のみならず、さまざまな人の、さまざまなくらしにおける末永い幸福への願いを込めて「祝福」という花言葉を贈りたいと思います。

 


文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など