二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第百八話 白露の花絵「桔梗」

2023.09.08

life


2023年9月8日から二十四節気は「白露」に

白露(はくろ)とは、昼夜の寒暖差で生まれた朝露が草木に宿った様子を表した節気です。
都会で朝露を見つけることは稀ですが、本来、秋は「露」の季節でもあり「白露」と「寒露(かんろ)」の二つの節気が仲秋と晩秋のはじまりに置かれています。
ちなみに二十四節気全体では秋から春にかけて気象を表す言葉が使われていて、秋は「露」、冬は「雪」、春は「雨」と、季節ごとに空模様が変化していく様子が表されています。

白露の行事「重陽の節句」
毎年9月9日に行われるのが五節句*の一つ、無病息災や長寿を願う「重陽(ちょうよう)の節句」です。
古代中国から伝わった節気で、奇数は「陽」の数字として縁起がよいとされ、特に9はその最大の陽の数字であり、9月9日は最も陽が重なる日であることから重陽となったといわれています。
別名では「菊の節句」と呼ばれていて、薬効があるとされる菊にあやかる、花びらを浮かべた「菊酒」や、菊の花に真綿を被せて香りや露を含ませたものでからだを拭く「着せ綿」などの行事が行われます。

*1月7日 人日の節句、3月3日 上巳の節句、5月5日 端午の節句、7月7日 七夕の節句、9月9日 重陽の節句を合わせて五節句と呼ばれます。


「桔梗」

□出回り時期(切り花):6~10月
□学名:Platycodon grandiflorus
□分類:キキョウ科 キキョウ属
□和名:桔梗
□英名:Balloon flower、Bell flower
□原産地:日本、中国、朝鮮半島

名前の由来
古来、桔梗には「朝貌/朝顔(あさがお)」と詠まれたり、「岡に咲く野草」という意味の「岡止々支(おかととき)」という古名もありましたが、現在でも使われている桔梗の名は(薬用として用いられる)乾燥した根が固いことに由来しているとされます。

「ききょう」の発音は平安時代には「きちかう/きちこう」と訓読されていましたが、やがて音読みの「きつきょう」などに変化して「ききょう」になったと考えられています。
他にも吉凶を占う花として使われていたことから、吉凶(きっきょう)が転じて桔梗になったという説もあるようです。

生薬
名前の由来にもあるように、古来より桔梗の根は咳止めなどに有効な薬草とされてきましたが、現代でもその薬効を活かした薬が作られています。
また、お正月にいただく「お屠蘇」にも関わりがあります。
本来のお屠蘇とは「屠蘇散(とそさん)」という、桔梗の根などの生薬をお酒やみりんに漬けた薬草酒で、これを年のはじまりに無病息災や長寿の願いを込めていただきます。

秋の七草
秋の七草とは、萩(はぎ)、尾花(おばな)=すすき、葛花(くずばな)= 葛(くず)、撫子(なでしこ)、女郎花(おみなえし)、藤袴(ふじばかま)、桔梗の七種の草花のことです。
これは、万葉集で山上憶良が詠んだ二首の和歌が元になり、親しまれるようになったとされています。

秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花(万葉集1537番)
萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花(万葉集1538番)

和歌の中では「朝貌/朝顔の花」と詠まれましたが、この解釈については諸説あり、ムクゲ説やヒルガオ説などもありますが、現在では桔梗が定説です。


花毎の花言葉・桔梗「幸運が重なる」

一般的な桔梗の花言葉は「気品」「変わらぬ愛」などです。「気品」は桔梗の上品な姿のイメージ、「変わらぬ愛」は平将門と桔梗姫の伝説に由来して付けられたのかもしれません。
また、桔梗は先にご紹介した通り、古来から秋を告げる花として古典文学にたびたび登場しますが、やがて家紋の誕生とともに花を図案化した家紋が何種類も作られるようになりました。星を思わせる花の形の美しさもありますが、桔梗の字を分解してみると「更に吉」となることが好まれた理由だと考えられています。
そこで、花毎では縁起を担いだ先人に習い、桔梗には「幸運が重なる」という花言葉を贈りたいと思います。


文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など