二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第八十五話 寒露の花絵「秋明菊」

2021.10.08

life


2021年10月8日から二十四節気は「寒露(かんろ)」に

晩秋のはじまりを告げる節気が寒露です。
関東地方は気温の変化が激しく、季節外れの暑さが続いていましたが、朝晩は気温が下がって熱のない乾いた秋風が吹いています。
寒露の本来の意味である「野の草花に露が宿る」といった様子は見るべくもありませんが、着々と秋は深まっているようです。

この時季、北海道では雪虫(ゆきむし)が飛び始めたとのこと。
本州では聞きなれないものですが、綿のようにふわふわと飛ぶこの虫は雪や寒さの前触れといわれていて、冬の到来を告げる北国の風物詩です。
一方、沖縄は日差しが和らぎ、海の透明度が高くなる10月は海あそびのベストシーズン。
縦に長い日本は夏の終わりと冬のはじまりが同時に進む、季節のグラデーションがユニークな時季です。


「秋明菊」

□開花期:8月中旬~11月
□香り:なし
□学名:Anemone hupehensis
□分類:キンポウゲ科 / イチリンソウ属(アネモネ属)
□和名:秋明菊(しゅうめいぎく)、貴船菊(きぶねぎく)
□英名:Japanese anemone
□原産地:中国、台湾

菊の名が付けられていますが、キンポウゲ科のアネモネの仲間です。
そのため、英語名ではジャパニーズアネモネと呼ばれています。

古来、中国から伝来したとされ、重陽の節句のころに京都・貴船神社の奥でこの花を見つけたことから貴船菊の名が付いたと伝えられていますが、日本各地でも野生しており「越前菊」「加賀菊」といった、それぞれの地域の名がついた別名が存在します。

貴船地域に自生していた、八重咲、薄紅色の原種はほとんど見られなくなってしまったそうですが、洛北の山里にある「宗蓮寺」はご住職が一株ずつ大切に集めた花を見ることができる、貴重な貴船菊の名所です。ちなみに、この原種の花の姿が菊に似ていることから、秋明菊や貴船菊といった名が付けられたともいわれています。
現在では近しい種や交配種を含めてシュウメイギクと総称していますが、本来のシュウメイギクを指すのは貴船菊とされています。


花毎の花言葉・秋明菊「本当の私」

一般的な花言葉は「淡い思い」「忍耐」「薄れゆく愛情」といった言葉が付けられていますが、これはギリシャ神話に登場するアネモネの神話に由来していると考えられます。

花の女神フローラに仕えていたアネモネが、フローラの夫である西風の神ゼピュロスに見初められ、それを知ったフローラによって花に変えられてしまいます。そして風=ゼピュロスが訪れると、その風で花は散ってしまう…というお話。

しかし、秋明菊はアネモネの一種であるものの、その性質はかなり異なっていて、木の下などの日陰ができる場所を好み、地下茎でどんどん増えていくといった性質を持っています。
また、アネモネは水気を感じる柔らかな茎ですが、秋明菊は細く硬く、しなやかに揺れて、折れることなく風をかわします。

こうして秋明菊にまつわる事柄をひも解いていくと、この花が持つ魅力ではないところに焦点があたっているようです。

植物学ではアネモネの一種でありながら、見た目の印象から菊と付けられ、花言葉はアネモネの借り物のよう。
でも本来の性質は華奢にみえて強靭。

実はさまざまな顔を持つ秋明菊には「本当の私」という花言葉が似合うように思うのです。

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など