第四十二話 立冬の花あしらい「秋明菊」
2024.11.07
暮life
日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを第一園芸のトップデザイナー、新井光史がご紹介いたします。
2024年11月7日から二十四節気は立冬に
暦の上で冬がはじまる節気です。
二十四節気には春夏秋冬「立」が付く節気があり、それぞれがその季節のはじまりを表していますが、実際の気候ではまだ実感がわきづらいころです。
しかし、日の長さはあきらかに短くなり、ここから本格的な冬へと季節は徐々に移ろっていきます。
さて、暦の上では冬に入りましたが、リアルな季節感は秋真っ盛りといったところ。
そんな時季の花あしらいに選んだのは、秋の光を集めたような優雅な花を咲かせる「秋明菊(シュウメイギク)」です。
ちなみに、「菊」と付きますが、これはかつて日本に渡来した際に、見栄えのよい花の代名詞として付けられたと考えられていて、植物の分類ではアネモネなどと同じイチリンソウ属に分けられている、菊とは全く異なる植物です。
切り花としても、庭の草花としても愛されていて、晩夏から初冬まで次々と楚々とした花を咲かせます。
今回は和と洋、両方の趣がある秋明菊を楽しむ花あしらいをご紹介します。
野に咲くように生ける
秋明菊が群生して咲く様子をイメージした花あしらいです。
白の秋明菊だけを、シンプルな白い陶器の花器に素直にあしらいました。花と茎のコントラストを活かすため、下の方に付いた葉は取り除いて茎が均等になるように生けます。
この花あしらいには「生け花」でよく使われる剣山(けんざん)を使用しました。口が広く、中身の見えない器を使う場合に便利な道具です。
白い秋明菊だけだった花あしらいに繊細な穂を持つ「パニカム」を加えました。
こうした「穂もの」を加えると、いっきに秋の雰囲気が高まります。違う種類の花材を加えても、この花あしらいでは茎が主役のひとつなので、秋明菊にあわせて余分な葉は取り除いて生けましょう。
秋明菊とパニカムに「黒ヒエ」を加えました。
黒の穂が入ったことで、より白い花が引き立ちました。生花では白と黒のコントラストを組み合わせる機会がなかなかありませんので、黒っぽい植物が手に入ったら、ぜひお試しいただきたい色あわせです。
先ほど生けた花に、ドライフラワーにした実付きの「コバンモチ」を一枝あしらいました。この枝はまるで秋風が吹いたような形をしていたので、あえて器の中に生けるのではなく、花器を挟み込むように置きました。
ネックレスやブローチのような感覚で、生けた花にこうしたプラスアルファを試してみると、印象が変わって、生ける人も見る人も楽しい仕掛けになります。
異なる花色を楽しむ
秋明菊は白の他に淡いピンク色の花もあり、こちらもまた魅力的。
そんなピンクの秋明菊を、あえて長いままざっくりと水差しに生けました。アンバランスな長さがかえって自然の姿に近しく見えて、ときにはバランスをくずしたこんな花あしらいもよいものです。
シンプルなマグカップに秋明菊ならではの姿を活かして、一輪だけを生けました。
一輪だけの花はすべての視線が集まりますので、何本か花がある場合は一番美しいと思えるものを選んで、最も美しい角度を見つけて生けます。
そのとき、この写真のように口の広い器に一輪を立てて生ける場合は剣山を使うと簡単です。大小さまざまなサイズがありますので、コインサイズの剣山をひとつ持っていると便利です。
こちらは剣山を使わず、花器の口にひっかけるように秋明菊と「ヒコウキソウ」を生けました。ヒコウキソウは飛行機の翼に見えるユニークな観葉植物ですが、もちろん身近にある植物でもOK。見慣れた植物も、例えば葉だけに注目してみると、植物全体では見えてこなかった面白さが発見できるかもしれません。
ユニークな花留め
花を固定するものは先ほどご紹介した剣山のほかにも給水スポンジなどもありますが、そうした特別な道具を使わずとも、身近にあるものが花留めになります。
この花あしらいではドライフラワーにした「キササゲ」の枝をまとめて、花留めにしています。
その枝の間に秋明菊と黒い枝葉が美しい観賞用の「トウガラシ ブラックパール」と葉の表裏の色が異なる「西洋ニンジンボク」をあわせて生けました。
落ち着いた秋の色合いを花留めの枝も含めて楽しめる花あしらいです。
枝の間に茎を挿すだけで、狙ったところに花が簡単に留まります。
小さく贅沢に楽しむ
秋明菊は全体でみると和の趣を感じますが、花だけにしてみると表情が変わって、まるで洋花のよう。
ここでは花だけを小さな花器に一輪ずつ生け、陶製のケーキ台に集めてみました。花の白と陶器の白があいまって、お菓子のような雰囲気の花あしらいに。
同じ花あしらいに蕾を加えました。少しグリーンが入るだけで、全く違った雰囲気が演出できます。庭植えの秋明菊であれば、次の花を咲かせるために早めに花をカットした方がよい場合がありますので、そんなときにもぜひお試しいただきたい花あしらいです。
水あげのコツ
庭に咲く秋明菊は丈夫な植物ですが、切り花にすると水が下がりやすくなります。どの植物にも共通していることですが、切り口を大きく、つぶさずにカットすることで水あげがよくなります。まずは、よく切れるハサミを使ってできるだけ斜めにカットします。(左)
花のプロのようにカッターなどを使うと(右)、より切り口がシャープに長くなり、水あげもよくなりますが、慣れが必要なので無理のない方法で行いましょう。
花がぐったりとしていない場合は、これだけで十分です。
もし、花首がうなだれているような場合は、葉をなるべく取り除き、茎を斜めにカットします。さらに、新聞紙で包んで、茎の半分が水に浸るようにして1~2時間程度水を吸わせます。
「秋明菊」の基本情報
□開花期:8月中旬~11月
□香り:なし
□学名:Anemone hupehensis
□分類:キンポウゲ科 / イチリンソウ属(アネモネ属)
□和名:秋明菊、貴船菊(きぶねぎく)
□英名:Japanese anemone
□原産地:中国、台湾
新井光史
神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。
2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。
コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。
著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。
花毎でお楽しみいただける新井の連載 夢の花屋
Text・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
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