第四十六話 啓蟄の花あしらい「アネモネ」
2025.03.05
暮life
日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを第一園芸のトップデザイナー、新井光史がご紹介いたします。
2025年3月5日から二十四節気は啓蟄に
啓蟄とは、冬ごもりしていた虫たちが、陽射しの温もりで目覚め、動き出すころを表した節気です。そして季節は仲春。節気と実際の季節感が近しく感じられる時季のはじまりです。
今回は神話にもたびたび登場するほど、とても古くから親しまれてきた「アネモネ」がテーマです。レトロなようでスタイリッシュなアネモネを楽しみつくす、花あしらいをご紹介します。
色の魅力
アネモネにはさまざまな魅力がありますが、最も印象的なのが「花の表情」ではないでしょうか。中心のおしべとめしべはまるで瞳のようです。それを取り囲んでいるのは、実は花びらではなく「ガク」で、花びらは退化してしまったユニークな花です。
同じ色でも中心とガクの組み合わせが微妙に異なり、一輪一輪が違った表情に見えるのがアネモネらしさかもしれません。
そんなアネモネの魅力を楽しめるのが、さまざまな色をひとまとめにした花あしらいです。色の濃淡やグラデーション、一重や八重などさまざまで、見ごたえ抜群。たまには色を遊ぶように、こんな花あしらいを試してみてはいかがでしょうか。
今度は色ごとに分けて生けてみました。
ここではアネモネを紫と白の花に色分けして生けて、対になるように飾っています。もちろんどちらかの色だけでも素敵なのですが、あえて分けて飾ることで、表情が違うのに相性はぴったりというユニークな楽しみ方ができます。
赤いアネモネだけを陶器の器にあしらい、余白には花の付いていない「椿」を一枝添えました。
こんな風にあえて茎が見えないように生けると、花の印象がぐっと高まります。そして、アクセントになっているのが椿の枝です。柔らかい質感のアネモネに対して、硬質な椿の枝が全体を引き締めてくれます。
大きな器だからといってたくさんの花は必要ありません。器の余白を活かして花を生けると立体感が出て、ドラマティックな花あしらいになります。
茎の魅力
アネモネは茎も個性的。真っすぐ伸びたものは少なく、不思議な形に曲がっていたり、驚くほど太いものがあったり、茎がタリアテッレのように幅広いものがあったりと、とてもユニークです。そんなアネモネの全体の姿を楽しめるように、1本1本が引き立つ花あしらいを考えました。
茎を長めにカットした白から紫のアネモネを1、2本ずつ、分けて生けます。花器は花の印象を引き立てる、シンプルなものがおすすめ。
写真では、花どめを兼ねたて小さな石をアクセントにしました。いくつも花器を並べる場合、全ての花器に石を使ってしまうとうるさくなってしまいますので、2、3個程度にするとバランスよく見えます。
こちらでは、白から濃いピンクのアネモネを一本ずつ並べました。上の写真では長く、下の写真では短くして生けています。
こんな風に長さを変えるだけでも、雰囲気が大きく変わります。例えば、最初の数日は長めの姿を楽しんで、お手入れの際に短めにカットすると、花の水揚げもよくなる上に雰囲気も変わって、二度楽しむことができます。
一輪を楽しむ
アネモネは一輪だけで楽しむのもおすすめの花です。
写真では3種類の花あしらいを集めてみました。アネモネに添えているのは、開花期がアネモネと近しい椿です。
左端は八重咲のアネモネに、つぼみのついた枝に葉を一枚だけ残した椿を添えました。中央は虫食いの葉を活かして、そして右端は白の花を引き立てる、いきいきとした常緑の葉を選びました。
生け方に難しいルールはありません。面白い!と思ったものを組み合わせて、自由に楽しんでみましょう。
さまざまな花材と組み合わせる
個性的なアネモネを仲春ならではのさまざまな植物と組み合わせました。
アネモネ以外の花材は「トキンバラ」「ギンネムの実」「ヒメツツジ」「ギョリュウバイ(御柳梅)」「アスチルベ」「紅葉アカシア」「イタヤカエデ」です。
本格的な春の少し手前、啓蟄の季節感にあわせて、ブラウンとグリーンが入り混じるような色の植物を選びました。落ち着いた色合いがアネモネの鮮やかな花色を引き立てます。
紫のアネモネを抜いてみると、また違った表情が生まれます。
さらに、赤のアネモネを抜きました。野趣あふれる雰囲気に。
今度は白のアネモネを追加すると、一気に春めいた印象に変化しました。
この花あしらいにはたくさんの花材が入っていますが、花屋で買うだけではなく、身近にある植物を使ってみると、思いがけない発見があるかもしれません。特に庭木などを剪定した時などはよいチャンスです。切った枝から似合う花を選んでみるのも花あしらいの楽しみのひとつです。
「アネモネ」の基本情報
□切り花出回り時期:11月~4月
□香り:微香
□学名:Anemone coronaria
□分類:キンポウゲ科イチリンソウ属
□別名:ボタンイチゲ(牡丹一華)、ハナイチゲ(花一華)、ベニバナオキナグサ(紅花翁草)
□英名:Anemone
□原産地:ヨーロッパ南部~地中海東部沿岸地域
新井光史
神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。
2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。
コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。
著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。
花毎でお楽しみいただける新井の連載 夢の花屋
Text・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
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