二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第八十九話 立春の花絵「ヒアシンス」

2022.02.04

life

2022年2月4日から二十四節気は「立春」に

二十四節気は立春から節気を刻み始め、一年をかけて二十四の節気を巡ります。

改めて二十四節気をひも解いてみますと起源は古代中国にあり、季節の移り変わりを知るための暦として考案されたのが始まりです。当初は星座を使って区分を定めていたようですが、やがて太陽の動きと連動した定め方が編み出されました。
日本にも早い時期に伝わりましたが、中国の気候とはずれが生じたため、より的確に季節を掴める「雑節*(ざっせつ)」と呼ばれる暦日や、二十四節気を更に約5日ずつ分けた「七十二候」を改訂した「本朝七十二候(ほんちょうしちじゅうにこう)」が考案されたのです。

この雑節の中で、立春を基準としているのが「土用」「節分」「八十八夜」「二百十日」の4つの歴日です。
「土用」は今では鰻を食べる日のように思われていますが、立春、立夏、立秋、立冬の直前約18日間を指していて、土いじりや引越しなどを避けた方がよい期間とされています。
「節分」は立春の前日で、もともとは前出の「立」が付く節気全ての前日にあった、季節を分ける日です。特に立春の節分は年越しの日と考えられていたようです。
「八十八夜」は立春から数えて88日目(2022年は5月2日)で、茶摘みが有名ですが、遅霜の境目であることから、さまざまな農作業への注意喚起として暦に載るようになりました。
「二百十日(にひゃくとおか)」は立春から数えて210日目(2022年は9月1日)で、台風や風が強い日といわれていますが、八十八夜同様、農作業への注意喚起日とされる日です。

それぞれの節気を表す語句の美しさから詩的に捉えられがちな二十四節気ですが、実は複雑に変化する天文に基づいた暦であることがわかります。

*代表的な雑節:土用・節分・彼岸・八十八夜・入梅・半夏生(はんげしょう)・二百十日


「ヒアシンス」(ヒヤシンス)

□出回り時期:11月~5月
□香り:あり
□学名:Hyacinthus orientalis
□分類:キジカクシ科ヒアシンス属
□和名:風信子(ふうしんし/はやしんす)、飛信子(ひやしんす)、夜香蘭(やこうらん)、錦百合(にしきゆり)
□英名:Hyacinth
□原産地:ギリシャ、シリア、小アジア

水栽培などでおなじみのヒアシンスですが、ギリシャ神話にその名が由来するほど、古くから親しまれてきた植物です。
16世紀にオスマン帝国からもたらされた球根はイタリアにある世界最古の植物園「オルト・ボタニコ」で栽培され、ヨーロッパ大陸に普及。17世紀初頭にはどこの庭でも栽培される一般的な植物になっていたようです。
日本には江戸時代末期にチューリップなどと共にオランダから渡来していますが、一般に栽培されるようになったのは大正時代に入ってからです。

ヒアシンスorヒヤシンス

この花は「ヒアシンス」「ヒヤシンス」二つの表記が混在しています。
ブリタニカ国際大百科事典は「ヒアシンス」、原色牧野日本植物図鑑(牧野富太郎著)では「ヒヤシンス」とありますが、もっとも英語の発音に近しいのは、大正時代に付けられたと思われる「風信子(はやしんす)」なのでした。

原種と改良品種

ヒアシンスにはオランダを中心に改良されたダッチ系とフランスで改良されたローマン系があり、花がびっしりと咲くのがダッチ系、花は少ないものの1つの球根から複数の茎が出るのがローマン系です。
こうした花の基になったのはオリエンタリス種という青色の花が咲く原種でしたが、品種改良によって青・紫・ピンク・白・赤・黄・オレンジ・黒などの色や、ストライプ状の模様の花弁、八重咲タイプなどのバリエーションが生まれました。

ギリシャ神話

名前の由来になったのがギリシャ神話に登場する美少年「ヒュアキントス」です。男神アポロとヒュアキントスが円盤投げに興じていたところ、二人に嫉妬した西風の神ゼピュロスはアポロが投げた円盤を風で操り、ヒュアキントスの頭にぶつけて殺してしまいます。その傷口から流れ出た血からヒアシンスが生えたとされていますが、この花はマルタゴンユリ、ヒエンソウ、グラジオラス、アイリス、ラークスパー、パンジーであったと考える説もあります。どの花も青や紫色であることが興味深いところです。

ヒアシンス・バブル

17世紀にオランダで起こったチューリップバブルの後、18世紀に入ると急速にヒアシンスのブームが起こりました。16世紀初頭には4品種だったのが、1725年頃には約2,000もの園芸品種に膨れ上がり、チューリップほどではなかったとされていますが、品種によっては相当な高値で取引が行われました。
その後品種数は減り、1830年頃を境にヒアシンスの人気は落ち着いていきます。

香り

ヒアシンスにはフローラルとグリーンの強い香調があります。この香りは古代ギリシャの頃よりリラックス効果があるとされてきました。
また、ヒアシンスの花を有機溶剤で抽出したアブソリュートと呼ばれる天然の精油はかつて香水の原料でしたが、花100キログラムから数十グラム程度しか抽出できないため、現在では調合香料に置き換えられているそうです。


花毎の花言葉・ヒアシンス「春のよろこび」

一般的なヒアシンスの花言葉は「スポーツ」「ゲーム」「遊び」「変わらぬ愛」「悲哀」などで、英語の花言葉もほぼ同様の言葉が付けられています。
日本語、英語共に前出のギリシャ神話に由来していますが、一世を風靡した花とは思い難い花言葉です。

この花に初めて出会った人の驚きに思いを馳せてみれば……
小さな青い花を付けた原種のヒアシンスを見つけた人も、それまでに無かった色の花を交配した人も、水の上に置いた球根から花を咲かせた小学生も、色鮮やかな星を思わせる花と、漂うさわやかな甘い香りに心をわしづかみにされたのではないでしょうか。

冬の室内を色と香りで彩り、春を待つ人を浮足立たせ、長らく人を惹きつけてきた魅力あふれる花、ヒアシンスには「春のよろこび」という花言葉を託したいと思います。

 

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 琵琶湖の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など