第二十話 小寒の花あしらい「ヒヤシンス」
2023.01.06
暮life
日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを第一園芸で花に携わってきた谷中直子がご紹介いたします。
毎月、旬の雰囲気を楽しめる花をピックアップして最後の一輪まで楽しみつくす、そんな花のあしらいのお話です。
2023年1月6日から二十四節気は小寒に
小寒とは、次第に寒さが厳しくなる頃。この後、寒さのピーク大寒がやってきて、暦の冬は立春まで続きます。
寒の入りを迎えたこの季節は「寒稽古、寒中水泳、寒仕込み」など、おなじみの言葉がたくさんあります。
寒さに耐えて自分を鍛えたり、厳しい寒さを利用して食べ物や飲み物を作ったりと、昔から人々は厳しい寒ささえも無駄にしなかったのだな、と温かい部屋でしみじみ考える私です。
七草粥を食べて一年の無病息災を願うのもこの頃、1月7日です。寒さは厳しさを増しますが、花屋さんで七草の寄せ植えを、スーパーで七草粥セットを見かけると、芽吹きたてのみずみずしい緑に小さな春を感じます。
今日はそんな春待つ季節にふさわしい、香り高くみずみずしい花「ヒヤシンス」をいけてみようと思います。
新春にぴったりのヒヤシンスをお部屋に取り入れて、晴れやかな気持ちで新しい年を過ごしましょう。
冬うららを感じる香りを楽しむ
ヒヤシンスと聞いてまず思い浮かぶのは香りです。
花の甘い香りと新緑のようなみずみずしいヒヤシンスの香りは、冷たい空気とあたたかい陽射しが合わさった、よく晴れた冬の朝のようなイメージが浮かびます。
ただ非常に強い香りなのでお好みにもよりますが、食卓に置く場合や体調がすぐれない時、妊婦の方などは少し強すぎると感じる場合があるかもしれません。場所やシーンを考えて楽しんでみましょう。
私は玄関に置いていますが、自宅に帰ってきた時に漂う芳香の多幸感がたまりません!
ヒヤシンスの和名は「風信子」これでヒヤシンス、もしくは「ふうしんし」と読みます。香りが風に運ばれてやってくることから当てられた漢字だとか。「かぜ のぶこ」と呼んでしまった小学生の頃を思い出します(笑)
みなさんも小学生の頃、水栽培で育てた思い出のある方も多いのではないでしょうか?水だけで花を咲かせるヒヤシンスの力強さと不思議さ、そしてその香りにノスタルジーを感じる方も多いかもしれませんね。
ガラスの器で凛とした空気感を表現
新春にふさわしい凛とした雰囲気を表現すべく、今回は白いヒヤシンスを選んでみました。
花や茎の向きを揃えて、ちょっぴり緊張感のあるイメージでいけています。透き通ったガラスの花器にいけて、器の中にすっと伸びた茎や水の美しさも楽しみましょう。
器の高さもポイントです。
ヒヤシンスは日々茎が伸びます。花もだんだんと咲いていくうちに重くなり、茎が花の重さに耐えられなくなると折れてしまうこともあります。
この花器のように、ある程度高さがある方が花の重さもサポートしてくれるので安心ですよ。
ヒヤシンスは水の量は少なめで大丈夫ですが、吸い上げが早いので少なくなってきたら足してあげてくださいね。
芽吹いたばかりのような緑をそえて生命力を表現
シンプルに凛としたヒヤシンスの姿を楽しんだ後は、みずみずしい緑をプラスして寒い冬に芽吹く七草のような生命力を表現してみました。
加えたのは光や気温に反応して花を咲かせたり閉じたりする春の花の人気者「アネモネ」と、ピンクッションのような形がかわいらしい「スカビオサ」、キュートな緑のベルのような「シレネ・グリーンベル」、マメ科のグリーン「コロニラ」です。
① ヒヤシンスを一番先にいけて全体を支えるベースに
② ①の反対側の下の方にアネモネをいける
③ コロニラで横幅を決める
④ ①~③の間にスカビオサをバランスよく配置
⑤ 一番軽やかな花材、シレネ・グリーンベルをふんわりといける
①から⑤の順番でいけると形が作りやすく、美しく仕上げることができると思います。
いける基本は大きいものや重量感のあるものは下の方に、動きがあるもの、軽やかなものは上部や両サイドなど中心から離れるように配置するとバランスがとりやすいですよ。
器を変えてカジュアルに
同じ花で花器を変えてイメージチェンジ。少しカジュアルにしてみたくてゴブレット型のガラス花器から、ナチュラルな花器にいけ変えてみました。
花が開いたヒヤシンスの重みを器の縁で支えるために、花の高さに対して少し背の高い花器を選んでいます。
全く同じ花ですが、シンプルな花器なのでコロニラを垂らして動きを出しました。
このように、水替えのタイミングで花器を変えると、雰囲気が変わってまた新鮮な気持ちで花を楽しむことができるのでおすすめですよ。
力強い芽吹きのシーンを表現
球根のような丸いフォルムのガラスの一輪挿しにヒヤシンスをいけて並べてみました。まるで冬の寒さの中で芽吹き、花を咲かせた瞬間のような美しさ、みずみずしさです。
二つの一輪挿しを近づけたり離したり、花の高さを変えて変化を楽しんでみましょう。
写真のようなスタイルでいけると、2~3日で茎が伸びてバランスが悪くなり、茎が折れる場合もあるので花器を変えるか、茎を短く切ります。その際のコツは後ほどご紹介します。
空き瓶をリユースしてカジュアルな一輪挿しに
スーパーのドリンクコーナーを見る時、ボトルのかわいさで選んでしまいがちなのは私だけではないはず。
そんなお気に入りの空き瓶にヒヤシンスをシンプルにいけてみました。
フォルムや色がかわいらしい空き瓶は、カジュアルな花あしらいにぴったりな花器に変身。こうしたガラス瓶は適度な重さと強度があるのでとても便利に使うことができます。
丸いフォルムのガラスの一輪挿しとまったく同じ花、本数ですが花器を変えるとだいぶ印象が変わります。
ぜひ、いろいろな器にいけて表情の違いをお楽しみくださいね。
一輪を眺めて最後まで花を楽しむ
ヒヤシンスの花は一輪一輪をよく見てみると、まるでジャスミンのような星型で、その美しさを改めて感じます。
最後に残った数輪の花も捨てないで楽しみましょう。
ぐったりと茎がしなだれて枯れたように見えても、花の先端の数輪はまだきれい!
こんな時は水に浮かべて美しさと香りを最後まで味わってください。器を変えたりグリーンを添えたりすると、また表情が違って見えますよ。
水も素材のひとつ。きらめく水で美しさが増します。花と器と水、どちらも美しく見えるように組み合わせれば、新春らしい晴れやかな花あしらいのできあがりです。
ヒヤシンスのお手入れのポイント
ヒヤシンスは他の花と少しお手入れ方法が異なります。
ほとんどの花は花屋さんから購入したらすぐに茎を切って、水にいけるのが正解なのですが、球根の一部が付いた状態で販売さているヒヤシンスは茎をカットしないでいけます。
写真上の少し膨らんだ黄色っぽい場所が球根部分です。球根には栄養分がまだ残っているので、そのままいけた方が蕾まで咲かせることができます。
ただし産地によっては球根が付いていない場合もあります。その場合はいつも通り茎を少しカットしていけましょう。
また球根の少し上にある葉と茎が薄皮でまとまっているところ(花の専門用語で「袴」と呼ばれる部分)を切ってしまうと、写真下のように葉と茎がバラバラになってしまい扱いにくくなりますので、残しておきましょう。
ただし、球根部分は土が付いていることがありますので、よく洗って土やぬめりを取り除いておきましょう。こうすることで花の日持ちが良くなります。
花は下から上へと咲いていくので、下の花から枯れて萎んだり、変色していきます。花が小さいので少し面倒なのですが、一輪ずつハサミでカットしてきれいな花だけを残すようにすると、最後まで美しく楽しむことができます。
蕾が咲ききったら栄養はそれほど必要がないので、今度は茎を短くカットして花の重さを支えていた茎の負担を少なくしてあげましょう。
ちょっとしたコツでとても長く楽しむことができるヒヤシンス。素晴らしい香りを楽しみながら、新春にふさわしい、みずみずしい美しさを楽しみましょう!
「ヒヤシンス」の基本情報
□出回り時期:12~3月
□香り:あり
□学名:Hyacinthus orientalis
□分類:キジカクシ科(クサスギカズラ科) ヒヤシンス属
□和名:風信子 など
□英名:Hyacinth
□原産地:ギリシャ、シリア、小アジア
□花言葉:「控えめな愛」など
花毎でご紹介しているヒヤシンスのお話
水上多摩江さんが描く花の絵
二十四節気の花絵 第八十九話 立春の花絵「ヒアシンス」
谷中直子
第一園芸入社前から学生バイトで働く生粋の第一園芸人。
百貨店系ショップでいわゆる花屋さんを数年経験後、ホテル店に移動しブライダル関係を十数年経験。店長職を経て本社勤務に。
現在は広報担当としてリリースなどの社外発信を担当。
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