二十四節気の花あしらい

旬の花を最後の一輪まで楽しみつくしませんか?
気軽に季節を感じる「花あしらい」のテクニックをご紹介。

第四十話 白露の花あしらい「グロリオサ」

2024.09.07

life

日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを第一園芸のトップデザイナー、新井光史がご紹介いたします。


2024年9月7日から二十四節気は白露に

朝晩の冷えた空気が露になる様子を表した節気が白露(はくろ)です。
旧暦では10月初旬にあたるので、もう少し秋が深まったころを表現している節気ともいえます。

さて、現代では9月初旬はまだまだ残暑が厳しいころ。そんな夏と秋をつなぐ季節を彩る花として選んだのが「グロリオサ」です。

グロリオサは熱帯アフリカから熱帯アジアが原産の球根植物で、切花であれば通年出回る花ですが、自然では夏から秋にかけて開花する、この時季が旬の花です。
今回は炎のような花と動きのある茎がユニークなグロリオサを使った花あしらいをご紹介します。

シルエットを活かす

グロリオサはツルを周囲の植物に巻き付けながら、上へ上へと育ちます。
ここでは、天に向かって両手を広げるようなイメージで、3本のグロリオサをシンプルに生けました。
動きのある茎も魅力のひとつなので、茎のラインを活かすために葉は数枚残して取り除きす。足元には別名「おもちゃメロン」とも呼ばれる「ククミス」をのせてアクセントに。これはなんだろう?と思うような仕掛けをプラスしてみると花あしらいがもっと楽しくなります。
花の本数が少ないときの花器はシンプルで細身のタイプを選ぶとバランスが取りやすいです。特に緑のガラス花器は茎と一体化して見えるので、花や茎の存在が活きます。

豪華に楽しむ

グロリオサの名前はラテン語の「gloriosus(見事な、素晴らしい)」に由来。こちらでは、その名にふさわしい、華やかな姿を豪華に楽しむ花あしらいをご紹介します。

まずは、赤と黄色のグロリオサをそれぞれ3本ずつ円筒型の花器にふんわりと生けました。全体の高さを押さえつつ、広がりのある生け方をするために、あえて口が広く丈の短い花器を使っています。
こうした形の花器と丈の長い花の組み合わせの場合、ただ生けただけでは花がうまく留まりませんので、大き目の石をいくつか花器の中に入れて花留にしました。ガラスから透けて見える石も含めて楽しむ花あしらいです。

グロリオサだけの花あしらいに、切り花として出回っている「花パイン」を加えました。花パインを交差して生けることで花留になりますので、先ほど使った石は取り出しています。

「月桃の実」を一枝加えました。たった一枝でエキゾチックな雰囲気と夏の終わりの雰囲気に変化しました。
グロリオサ、花パイナップル、月桃の実はどれも個性的な姿をしていますが、熱帯地方が原産の植物は組み合わせると、とてもよくお互いを引き立て合います。

だんだんと秋の気配が濃くなっていくイメージで、色づきはじめた実ものの「ビバーナムコンパクタ」と「丁子草」を加えました。実ものは季節で色が違うので、季節感を演出するのにぴったりですし、ボリューム感もアップします。いろいろな花とも組み合わせやすいので、もう少し何かが欲しいときにぜひお試しいただきたいテクニックです。

秋が旬の「エキナセア」と「マム(スパイダー咲き)」を加えたら、こんなに豪華な花あしらいに変化しました。
花がたくさん入って難しそうに見えますが、既に生けてある花の隙間を埋めるように短めにカットしたエキナセアやマムを挿すだけです。
何種類もの花を使うときには、使う色の幅を決めておくと上手くまとまります。(この花あしらいであれば、黄色から赤紫の色幅です)こうすると、花の形はさまざまでもまとまった印象に仕上ります。

夏と秋の出逢いを表現

グロリオサは切花でも比較的つぼみが咲きやすい花です。咲いた花を早めに摘み取ると、これから咲く花に栄養がいきやすくなり、つぼみが咲きやすくなります。
摘み取った花はもちろん捨てずに、小さな花あしらいにしましょう。

一輪の花を束にして、色づきはじめたビバーナムコンパクタを添えます。たったこれだけですが、色のマジックで季節の移ろいが伝わる花あしらいになりました。

形の面白さで遊ぶ

お手入れの過程で残った一枝のグロリオサと月桃の実を合わせました。
細身の水差しに、自然に曲がった2本の月桃を向き合うように生けて、四角いフレームのようなシルエットをつくります。そこに葉を全て落としたグロリオサを添えます。
花器は色ガラスのタイプですと、よりアーティスティックな印象に。

ここでは月桃を使いましたが、ユニークな形に曲がった植物を見つけたら、ぜひ挑戦していただきたい花あしらいです。

空間を生ける

こちらでもお手入れの過程で摘み取ったグロリオサを使って、手のひらにのるような小さな花器に2本のグロリオサと「ハラン」を生けました。
ハランは一枚の葉が大きいので、全体のバランスを考えて葉を半分に。少し切り込みを入れるだけできれいに裂けます。切り取った葉は花器の口に巻き付けて花留にしました。

繊細なグロリオサの花と片側に思い切り流して生けたプロペラのようなハランの葉は、小さいけれど空間を贅沢に使った花あしらいです。

小さな小さな花あしらい

最後は短い茎でも楽しめる、極小の花あしらいです。
お手入れなどで切り取った茎を、アロマオイルが入っていた空き瓶に生けました。ビバーナムコンパクタから落ちた実で彩を添えます。
写真のようにいくつかを集めて、または重たいものは置けない小さなスペースにひとつだけというのも素敵です。
小さな花あしらいならではの魅力を活かして、最後の一輪までグロリオサを楽しみましょう。

今回使用した花:マム、花パイナップル、ハラン、月桃の実、エキナセア、グロリオサ(黄色)、おもちゃメロン(ククミス)、グロリオサ(赤)、ビバーナムコンパクタ

「グロリオサ」の基本情報

□出回り時期:通年(最盛期7月~9月)
□香り:なし
□学名:Gloriosa
□分類:イヌサフラン科 グロリオサ属
□和名:ユリグルマ、キツネユリ
□原産地:熱帯アフリカ、熱帯アジア


新井光史

神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。
2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。
コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。
著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。

花毎でお楽しみいただける新井の連載 夢の花屋

Text・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子