夢の花屋

第一園芸のトップデザイナーが、世界中の絶景や名画、自然現象や物質を花で見立てた、
この世でひとつだけの花をあなたに贈る、夢の花屋の開店です。

第九話 「オパールに見立てる」

2022.10.14

gift

この世にある美しいものを花で見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。
そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せる、夢の花屋の第九話は「オパール」に見立てたブーケです。手掛けるのはオランダ出身のフローリスト、シェラー・マース。
ここからは花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。

オパールとは

オパールは見る角度によって、さまざまな色が複雑に変化する「遊色効果(ゆうしょくこうか)」という、独自の輝きを持つ石です。

語源はサンスクリット語で宝石や貴石を意味するupalaと考えられていて、その後、ギリシャ語の「色の変化を見る」というopalliosという派生語に由来すると考えられています。

その不思議な輝きからさまざまな文化で神話や逸話があり、各地で幸運の石とされてきました。そして、オパールは10月の誕生石。人々に幸福をもたらす季節である実りの季節であることからこの石が選ばれたようです。

さて、色調が豊富なオパールは色ごとに呼ばれ方がありますが、今回、シェラーがモチーフにしたのは石そのものの色が暗い色をしたブラックオパールと呼ばれるもの。一般的な白っぽいオパールよりも、遊色効果がはっきりとわかるのが特徴です。


見立ての舞台裏

シェラーが用意したのはオレンジ色を中心とした、ビビッドな色合いの花々。
実物のブラックオパールを親戚に見せてもらい、イメージを固めたそうです。

「自分が見たブラックオパールは漆黒の中にオレンジや青、緑などが混じった不思議な色だったのでそれを花で表現したいと思いました」

ブーケの作り始めはバラとアジサイ、テマリソウなどの小さな束。ここからあっという間に大きなブーケへと変化して行きます。

あっという間に数倍の大きさに。

色のコントラストだけではなく、波打つような形の花や、うつむいて咲く花など、いろいろな形の花を巧みに組み合わせていきます。

茎の本数からも見てとれる通りの大きな束を結んで仕上げます。

ブーケが完成かと思ったところで、鮮やかなオレンジのチュール生地が登場。

「テレビの動物番組で、まるでオパールのようなカラフルな鳥が求愛のために首回りの羽根を広げた姿を見ました。力強い美しさがとても印象で、羽根を広げたシルエットはブーケの周りをレースで飾る古典的な手法に似ていることに気づきました。そこでこのブーケの周りを鮮やかな色で彩ろうと思いました」

実はこのチュールは生地にシェラーが模様をペイントしています。

「これはいくつかのファッションブランドが服に直接ペイントしていたことにヒントを得ました。ただチュールをブーケに巻いただけではウェディングブーケのようになってしまうので、見る位置によって変わるオパールの色合いをイメージしながらペイントしました」

最後にチュール生地の上にレモンリーフを重ね、一体感のあるブーケにまとめていきます。


完成、オパールに見立てたブーケ

オパールに見立てたブーケの完成です。

「ツヤツヤした質感の唐辛子や、揺れるベッセラ、強い色合いのカーネーションでブラックオパールの不思議な色合いを表現しました」

「秋らしさも演出したくて、ハロウィンのランタンのようなホウズキも加えました」

ブーケの中でゆらゆら揺れる「ベッセラ」がブーケ全体のアクセントに。

シェラーのお気に入りのバラ「ベビーロマンティカ」も入っています。

ブーケだけをオパールを思わせる花器に入れました。
どちらも強烈なインパクトがありますが、合わせてみればお互いが響き合い、花が全く違う表情に見えてきます。

今回の花材:バラ(ラロック、ベビーロマンティカ、シャインオン)、ベッセラ、カーネーション(ノビオバーガンディー)、ケイトウ、テマリソウ(オレンジ染)、ジニア、トウガラシ、トラジスカンティア、ホウズキ、アジサイ、レモンリーフ

「今回のブーケは手法こそクラシックですが、個性的なものを集めたデザインです。ブラックオパールのイメージを膨らませる中で、美しい鳥の姿や、自分の好きなファッション、かつて習ったブーケの手法など、たくさんのインスピレーションを一つのブーケに束ねました」

シェラーが作ったこのブーケは、見た目もさることながら、見る角度によって違って見えるオパールのように、彼が石から感じた多様なイメージ=アイデアが反映された、複雑な美しさを持つ作品となりました。


「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。

第十話予告
次回は新井光史が担当する夢の花屋。11月11日(金)午前7時に開店予定です。

Gérard Maas シェラー・マース

オランダ出身。STOAS University of Applied Sciences(農業分野での教員を育成する高等専門大学)に進学し、国家ライセンスを取得。祖国オランダをはじめ、ベルギー、フランスで経験をつんだ後、1994年にオランダスタイルのフラワーデザイン学校の講師として招致され来日し、以後5年にわたり教鞭をとる。2003年に再来日。翌年、日本で行われたダニエル・オストのインスタレーションをきっかけに第一園芸に入社。