夢の花屋

第一園芸のトップデザイナーが、世界中の絶景や名画、自然現象や物質を花で見立てた、
この世でひとつだけの花をあなたに贈る、夢の花屋の開店です。

第三十二話「ヴェネツィアのカーニバルに見立てる」

2025.02.01

gift

この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが夢の花屋です。
第三十二話は「ヴェネツィアのカーニバル」に見立てたアレンジメント。手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとりである、志村紀子。
ここからは花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。

ヴェネツィア・カーニバルとは

ヴェネツィア・カーニバルは、毎年2月中旬から3月初旬にかけて開催される、世界三大カーニバルの一つとされる祭典です。
この期間は華麗な衣装と仮面をつけた人々が街を埋め尽くして、中世の時代にタイムスリップしたような幻想的な雰囲気に包まれます。
カーニバルの起源ははっきりしていませんが、11世紀または12世紀ごろという説があり、ヴェネツィア共和国の繁栄、宗教的な背景、政治的な状況などのさまざま要因が絡み合う「匿名者の祭典」として始まったと考えられています。
仮面をかぶるのは、身分や階級などの素性を隠して自由な交流を楽しむためという理由からで、魔除けや悪霊を払うといった意味合いも込められていたようです。
しかし、このカーニバルは18世紀に政治や宗教的な理由から禁じられてしまいます。その後、およそ200年間の時を経て、1979年にイタリア政府やヴェネツィア市によって歴史や文化の復興を目的に再開。現在ではこのカーニバルを目的に、約300万人が訪れる人気の祭典となりました。
また、このカーニバルには毎年テーマがあり、2024年は「東へ…マルコ・ポーロの驚くべき旅」、2025年はジャコモ・カサノヴァ生誕300周年を記念して「カサノヴァの時代」が選ばれています。(いずれもヴェネツィア共和国出身の人物)


見立ての舞台裏

今回は紫を中心にした花々が用意されています。染めた花や、プリザーブドもこだわりなく使うのが志村流。

金色にうねる物体は、志村が事前にワイヤーなどで作っていた花を支えるフレームです。

そのフレームに、「プリザーブドのシダ」を次々と挿しこんでいきます。

紫とグレーのシダを使って扇状に形作っていきます。

今度は水色に染めた「スイートピー」を挿していきます。

次々と花が加えられていきます。青いネオンカラーの花はなんと、染めた「シンビジウム」です。

さらに、紫と青に染めた「ガーベラ」も加わりました。

まるで黒色のように見える花は「パンジー」。たくさんの花々をひとつに束ねて、まもなく完成です。


完成、ヴェネツィアのカーニバルに見立てたブーケ

ヴェネツィアのカーニバルに見立てたブーケが完成しました。

「2月はヴェネツィア・カーニバルの開催時期だと知って、この見立てを思いつきました。ヨーロッパならではの、おどろおどろしい雰囲気やお祭りの高揚感、独特の色彩感覚をこのブーケで表現しました」

「幻想的な雰囲気を出したくて、染めた花をたくさん使っています。もちろん、自然そのままの色の花も美しいのですが、染めた花にはドキッとするような魅力があって、その感覚を活かしたつもりです。
特に今回は市場で見つけた、染めシンビジウムに心奪われてしまって、この花を活かしたくて全体をデザインしたほどです」

ちなみに、このブーケで染めていない花は濃紫のパンジーとピンクパープルのスイートピーだけです。

背面から見た姿です。持ちやすいようにフラットに仕上げています。

志村本人にブーケを持ってもらいました。上半身が隠れるほど大きな扇形のブーケです。

今回の花材:染めシンビジウム、スイートピー(染め水色、他)、染めガーベラ、ヤマシダ(プリザーブド)、カスミソウ(プリザーブド)など

ヴェネツィアのカーニバルに見立てた、志村の名所シリーズ第四弾はいかがでしたでしょうか。
世界にはさまざまなカーニバルがありますが、ヴェネツィアのそれはグロテスク様式の雰囲気を漂わせる「毒」と「夢」を感じる特異な祭典です。
今回、志村が制作したブーケも然り。自然界には存在しない色の花や、植物の時間を止めたプリザーブドの花材を使った非日常の花は、ただきれいなだけではない、美しい毒の気配を漂わせています。
実際のヴェネツィア・カーニバルでこのブーケを持ったのなら、カサノヴァのごとく妖しい魅力で人を惹きつけてしまう、主役を食う小道具になりそうです。


「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。

第三十三話予告
次回は新井光史が登場。3月1日(土)午前7時に開店予定です!

志村紀子 Noriko Shimura

東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。

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