夢の花屋

週末、自分のために花を飾りましょう。
花を手軽に楽しむコツを第一園芸のフローリストがご紹介します。

第五十一話《香水》に見立てる

2026.09.01

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この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。
そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが《夢の花屋》です。

第五十一話は、目には見えない余韻と記憶をまとう「香水」に見立てたブーケ。
手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとり、《志村紀子》。
ここからは、花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちで、お楽しみください。

目には見えない香りのかたち

香水は、さまざまな香料を組み合わせることで、一つの世界観や物語を描き出すもの。古くから人々を魅了してきたその香りには、目には見えない豊かな表情が隠されています。

その魅力の一つが、時間とともに移ろう香りの変化です。 肌につけた瞬間に立ち上がる「トップノート」、香りの中心となる「ミドルノート」、そして余韻を残す「ベースノート」。香料が揮発する速度の違いによって、香りは時間とともに表情を変えていきます。一本の香水には、始まりから余韻まで続く「香りの物語」があるのです。

さらに、香りの世界の面白さは、実在する香りを再現するだけではないところにもあります。 たとえばスズランは、花そのものから香料を抽出することが難しい植物。そのため調香師たちは、複数の香料を組み合わせることで、その清らかな印象を表現してきました。

このように香料を調和させて一つの印象をつくり上げることを、香水の世界では音楽の和音になぞらえて「アコード」と呼びます。自然界の香りを再現するだけでなく、新たな香りを生み出せることも香水の魅力です。

また香りは、記憶や感情とも深く結びついています。街ですれ違った人の香りから懐かしい誰かを思い出したり、花や雨の匂いから忘れていた風景がよみがえったり。目には見えない香りが、遠い記憶を呼び覚ますこともあります。

今回、志村が見立てのモチーフに選んだのは、自身が愛用する香水。タバコリーフを中心に、スパイス、トンカ豆、ココア、フルーツ、バニラなどが複雑に重なり合う香りです。その豊かな世界観からイメージを膨らませ、ブーケを仕立てます。

時間とともに移ろい、幾重にも香りを重ねながら人の心に働きかける香水。その目には見えない印象を、色や形をもつ花に置き換えたとき、どのような景色が生まれるのでしょうか。


見立ての舞台裏

主役に選んだのは、赤い花々。香りをテーマにした作品ということもあり、志村は花だけでなくフルーツも用意しました。

テーブルに並ぶ花々は、深みのある赤や艶やかな質感が印象的なものばかり。そこに熟した果実を添えながら、目には見えない香りのイメージを少しずつ形にしていきます。

どのような作品が生まれるのか、その制作の様子をのぞいてみましょう。

真紅のエナメルを思わせる「アンスリウム・ネロ」は、今回の主役ともいえる花材。その艶やかな質感と存在感が、見る人の視線を惹きつけます。

赤は赤でも、質感や明度、シルエットはさまざま。志村は一輪ずつ表情を見極めながら、香りの層を重ねるように束ねていきます。

手元で少しずつ形になっていくブーケ。花を加えるたびに表情が変わる様子は、トップノートからベースノートへと移ろう香りの変化にもどこか似ています。

1m近くもあるアマランサスを加えることで、作品はさらに複雑で印象的な姿へ。流れるようなラインが加わり、香りの余韻を感じさせるシルエットが生まれました。


志村紀子が花で見立てた《香水》

「完成したブーケを花器に入れました。
今回は私が愛用している、苦さと甘さを重ねたような香りを、さまざまな赤い花を使って表現しました」

深みのある赤、黒味を帯びた花色、艶やかな質感。その一つひとつが重なり合い、甘さだけではない複雑な香りの世界観を描き出しています。

「実は今回使用した花々には、香りはほとんどありません。もちろん画像で香りをお伝えすることもできません。
そこでフルーツを組み合わせることで、甘く熟した香りのイメージを演出しました。
果汁が滴り落ちるほど熟したプルーンや、黒味を帯びた赤い花々から、この香水が持つ奥行きや温度感を感じ取っていただけたらうれしいです」

ブーケを手にした志村。香りという目に見えない存在を花で表現するため、色彩や質感、伸びやかなラインにまでこだわりが込められています。

今回の花材:アンスリウム(ネロ)、バラ(ルビーレッド)、カラー(レッドチャーム)、ガーベラ(ブラックパール)、カーネーション(ネボ)、オンシジウム(ボブキャット)、アマランサス(ハンギングレッド)、赤葉千日紅、プルーン

香りは目には見えず、触れることもできません。それでも私たちは香りによって記憶を呼び起こし、ときに感情を揺り動かされます。今回のブーケは、そんな香りの世界を花で表現したもの。愛用する香水から広がったイメージが、一つの花の景色として結実しました。


《夢の花屋》でご紹介している志村紀子の作品
第四十九話《夏霧》に見立てる
第四十七話《パラオのジェリーフィッシュレイク》に見立てる
第四十五話 《マリー・アントワネット》に見立てる

夢の花屋から商品が誕生!
【夢の花屋】「トルコの色彩」ブーケ
【夢の花屋】「トルコの色彩」アレンジメント


「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい……というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。

第五十二話予告
次回は新井光史が登場。10月1日(木)午前7時に開店予定です!

志村紀子 Noriko Shimura

東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。

第一園芸オンラインショップ「Noriko Shimura」

Text・Photo 第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子