夢の花屋

週末、自分のために花を飾りましょう。
花を手軽に楽しむコツを第一園芸のフローリストがご紹介します。

第四十九話《夏霧》に見立てる

2026.07.01

gift

この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。
そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが《夢の花屋》です。

第四十九話は、夏の朝だけに現れる自然現象「夏霧」に見立てたアレンジメント。
手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとり、《志村紀子》。
ここからは、花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちで、お楽しみください。

夏霧とは

「夏霧(なつぎり)」は、夏を彩る季語のひとつで、夜のあいだに冷やされた大地と、湿り気を含んだ空気が織りなす、夏の朝だけに現れる自然現象です。

空気中の水蒸気が小さな水滴になったものが霧と雲で、その違いは高さのみ。地表近くに漂うものを「霧」、空高く浮かぶものを「雲」と呼びます。

地表近くに漂う白い霧は、木々や草花をやわらかなヴェールで包み込み、朝日を受けながら静かにほどけていきます。

やがて朝日が昇るにつれて、白い霧は少しずつ薄れ、草木は本来の色を取り戻していきます。ほんのわずかな時間だけ訪れるその移ろいは、一日の始まりを静かに告げる、夏ならではの美しい情景です。


見立ての舞台裏

中央にある花器を使って、アレンジメントを制作します。
“霧”をイメージした、あいまいな色合いの植物が集められました。

今回の主役ともいえるのが、「スモークツリー」。その名の通り、煙のようなふわふわとした部分は、花が咲いた後に残る軸「花柄(かへい)」が伸びたもの。初夏だけに見せる、ユニークな姿です。

スモークツリーをベースに、見え隠れするようにたくさんの花や枝を挿していきます。


志村紀子が花で見立てた《夏霧》

「市場でひと際美しいスモークツリーを見つけて、この枝を主役にした見立てを作りたいと思いました。
スモークツリーに溶け込ませたかったので、あえてどれもがあいまいな色の花を選んでいます」

「夏といえばビビッドな色彩を思い浮かべがちですが、夏の朝は、少し違った色の印象を受けることがあります。
実際に霧が出ていなくても、湿り気のある空気がすべてを包み込んで、いろいろな物がやわらかな色合いに感じるのです」

「ふんわりとしたスモークツリーのイメージを活かしたくて、花材の配置やシルエットも均等にせず、ラフに挿しました。
『グミ』は葉裏のシルバーが美しいので、裏返して。いつもは主役級の『胡蝶蘭』もここでは全体に溶け込むように添えています」

今回の花材:カーネーション・マリポサ、ホワイトレースフラワー、アンスリウム、胡蝶蘭・マザーチーク、バラ・エクストリーム、スモークツリー、グミ

朝日とともに現れ、やがて静かに消えていく夏霧。束の間だからこそ、私たちはその美しさに心を動かされるのかもしれません。

目に見えない空気の流れや光の移ろいを、花というかたちで表現した今回の《夏霧》。
作品をご覧になったあと、夏の朝に立ちのぼる白い霧を思い浮かべていただけたなら、この見立てはきっと完成です。


《夢の花屋》でご紹介している志村紀子の作品
第四十五話 《マリー・アントワネット》に見立てる
第四十二話 《フラメンコ》に見立てる
第四十話 《トルコの色彩》に見立てる

夢の花屋から商品が誕生!
【夢の花屋】「トルコの色彩」ブーケ
【夢の花屋】「トルコの色彩」アレンジメント


「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい……というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。

第五十話予告
次回は新井光史が登場。8月1日(土)午前7時に開店予定です!

志村紀子 Noriko Shimura

東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。

第一園芸オンラインショップ「Noriko Shimura」

Text・Photo 第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子