〈北海道ガーデン街道 vol.1〉第八話 母と娘が作った北海道ガーデン「上野ファーム」
2018.09.10
旅travel
第七話の風のガーデンから車で約1時間半、私たちが旅した北海道ガーデン街道の最終目的地が「上野ファーム」です。
動物の行動展示で有名な旭山動物園からほど近い上野ファームは、その絵本のような可愛らしい庭が人気の北海道ガーデン。
前出の「風のガーデン」や「大雪 森のガーデン」のデザインも手掛ける、ガーデンデザイナーの上野砂由紀さんから楽しいお話を伺ってきました。
上野家はご先祖が入植して100年以上続く米農家。
1989年、お米販売の自由化に伴い、個人販売を開始。わざわざ訪れてくれる客様をおもてなしする気持ちで、農道の脇に花を植え始めたのがきっかけ。
その花が訪れる人々に評判を呼び、その後家族総出で本格的な庭づくりに取り掛かります。
そして2001年、オープンガーデンをスタート。そこから「上野ファーム」と北海道ガーデン街道の今につながる物語がはじまります。
米農家のオープンガーデン
ノームが住んでいるので、中は非公開のノームの家。誰もいない時にこっそりメンテナンスしているそう。
上野さん:
その分、植物の生長がゆっくりで、いつもよりがっしりと低めに育ってますね。
花毎スタッフI:
上野さん:
秋はローズヒップの実がきれいなので、オーナメンタルグラスと合わせたり、他のガーデンでは見られない特徴を持ったローズガーデンが風のガーデンの「薔薇の庭」なんです。
「野の花の散歩道」は北国でもよくみられる野草なども意識的に植栽して、だれもが懐かしく感じるような野原をイメージして作っている庭です。
「風のガーデン」も「上野ファーム」も 親しみやすい風景とか、華やかさを感じられて、写真映えもする……
園芸ってそういうわかりやすさも大事だと思って、そんなことも意識しながら考えています。
花毎スタッフI:
上野さん:
イギリスで気づいたガーデンの魅力
スコップがデザインされた上野ファームの素敵なマークが壁面に。
花毎スタッフI:
上野さん:
その中の一つにイギリスでガーデニング研修とか、ティーハウスで働くとか色んな項目があって、その時はガーデナーになろうとは全然思ってなかったんですけど、イングリッシュガーデンいい!いい!って(笑)。
当時は仕事も行き詰っていて、単なる語学留学がしたかったんです。一度は海外に行きたいと思っていて、調べていたタイミングだったこともあって(語学留学だけではなく)一緒に職業体験がある研修の方が面白いかなと思って。
最初は興味本位で参加したんですけど、ホームステイ先のお庭がすごく素敵なプライベートガーデンで、ガーデナーを雇っていて、その人たちと毎日花がらを摘んだり、草むしりをしたりとか。
何も調べないで行ったので、こんなデザインの世界があったんだなという衝撃を受けました。それがきっかけで庭ってすごく面白いなと思ったんですよね。
農家で、畑がある環境で育ったので、土いじりは全然抵抗はなかったんですよ。
母もイングリッシュガーデンにはまっていたりとか、色々なキーワードがつながって今に至ります。
イギリスにはオープンガーデンという仕組みがあって、オープンの日はいろんな人が集まってお店を開いたり、コミュニティとして成り立っているんです。
そういうのを見ているうちに、単に花を見るだけじゃなくて人を集めるというか、ひとつのファクターになるというか…ガーデンっていろんな素材になるんだと思いました。
それを北海道に持ち帰って、イングリッシュガーデンをもっと本格的に「上野ファーム」で作ったら、こんな田舎にも人が来るかもしれない、という感じですね。
両親も乗り気で、父も新しいことが好きなので、庭とか興味は無いんですけど「やるべやるべ」(笑)みたいな感じで自力で始めたんです。
田植えが終わったらこっちをやって、稲刈りが終わったらひと段落するので石を積もうとか、毎年繰り返してやってきました。
私ももちろんずっと田植えをやってきましたし、農家を手伝いながら庭を作るというのを続けてきたので、ガーデナーになろうというよりかは、いつの間にかなっていた感じです。
園芸雑誌も北海道向きの情報ってないんですよね。ほとんどが暖地中心の情報なんです。だから耐寒性がありますとか書いてあっても-30℃近くなる旭川では全然ダメだったりしました(笑)
まずは、どんな植物も自分で植えてみて、耐寒性を研究するという感じでしたね。
花毎スタッフI:
上野さん:
実際に学び始めたのは帰国してからです。なので母も私も資格は無しです(笑)
花毎スタッフI:
上野さん:
最初は一年草のばら蒔きとか、寄せ植えを並べたりというレベルだったんですけど、だんだん広げて、(お米を)買いに来た時によかったら庭も見てください、ぐらいの気持ちで始めたのがマザーズガーデンなんですよね。
その時は私も学生だったのでノータッチで、2000年に(イギリス)研修から帰ってきてから家族で造成し始めて、2001年からサークルボーダーとかミラーボーダーとかを拡大しました。
名前の通り、鏡合わせのように左右対称に宿根草を植えたミラーボーダーガーデン。
花毎スタッフI:
上野さん:
非常にアナログな方法で作りました。芝生も種を撒いて一から作りました。
ノームの庭や大掛かりなところは知り合いの造園屋さんに頼んでいますが、ほとんどそれ以外は煉瓦積みも全部自力でやってます。
もちろん農業も兼業でやっていたので、大変でした。
でも当時は米作りがメインだったので、農場の魅力作りの一つとして庭を作ったり、花を植えたりしていました。そのうちにオープンガーデンも流行ってきて、口コミで来られる方も増えてきたんです。
写真は自生種の「エゾクガイソウ」。「上野ファーム」では旭川の野山に生えてるエゾクガイソウの野草やエゾミソハギ、エゾノコンギクなどの北海道の自生種もガーデンに取り入れています。
花毎スタッフI:
上野さん:
「ノームの庭」は刻々と表情が変わり、8月中旬にもなるとグラス類が色づいて、とても美しいグラデーションになるとか。
花毎スタッフI:
上野さん:
だいたいゴールデンウィーク中に宿根草の間に植えたチューリップが咲き始めて、5月一杯はチューリップが見れるような感じなんです。
もう切っちゃったんですけど、6月は爽やかな色目のジキタリスが咲きます。
もともとは北海道の屯田兵の射的訓練場で、そこから名前が付いた「射的山」。 山と名付けていますが、実際は小さな丘。緩やかな斜面を登ると街を見下ろす、眺めのよい場所です。
上野さん:
ノームの庭には芝生の中にムスカリを植え込んでいるので、春だけムスカリが芝生から川の流れのように出てくるようにしています。
季節によって表情がすごく変わります。そこが宿根草ガーデンの魅力でもあるので、植え替えは一切しないで、春から秋まで自動的に入れ替わっていくという感じですね。
秋は球根植えを全部終わらせて、後片付けをすると12月上旬くらいまでかかるので、最初だけお店のスタッフにも手伝ってもらうこともありますが、最後は母と二人でやっています。
花毎スタッフI:
上野さん:
うちのガーデンではほとんどが宿根草で、バラは1割にも満たないんです。
園芸ってすごく幅が広いと思うんですが、いまは表現がどんどん狭められるっていう感じはしますね。
植物は何万種もあるのに、多くの植物は注目されないままで、それをもう一回こじ開けるぐらいの気持ちでやりたいです。
もっと植物の魅力というか、こんな花あるんだ!というのに気づいて欲しいなと思ってます。
ただきれいな花よりも「なにこれ?!」みたいな植物をちょっとづつ入れて……ガーデンって遊びに来ても楽しいね!って思ってもらえたらうれしいですね。
* エゾエンゴサク
鮮やかな青い花を房状に咲かす、高さ10cm~15cmほどの小さな花。
* オオバナノエンレイソウ
3枚の花と葉が特徴の北海道の春を告げる花。開花まで10年~15年かかるとされる。
自分なりの北海道ガーデンを作る
花毎スタッフI:
上野さん:
最初は「十勝千年の森」の代表でもある林さんが、上野ファームまで訪ねてきて「一緒に連携しましょう!」というのが北海道ガーデン街道に参加するきっかけだったんです。
私はずっと個人庭園として単独で情報発信していたので、急に十勝から林さんが訪ねてきたときはびっくりしました。
当時「風のガーデン」がドラマの後にすごい人気がでている時で、そこにくるお客様も含めて、周辺のガーデンも巡って欲しいという思いで立ち上がったのが「北海道ガーデン街道」なので、林さんが声をかけてくださらなかったらこんなにもたくさんの庭がつながらなかったと思います。
花毎スタッフI:
上野さん:
例えば「上野ファーム」と「大雪森のガーデン」を巡って、層雲峡の温泉街に泊まるのもいいですね。
春先だったら旭川に「北方野草園」というところがあって、そこのエゾエンゴサクがすっごくきれいなんです。
他には旭川駅の裏に大きな公園があって、旭川市で作っている宿根草の庭がナチュラルな雰囲気で、散歩すると気持ちがいいです。
ここは北海道ガーデン街道のルートからも近いので、あわせて楽しんでいただくのもおすすめです。
花毎スタッフI:
上野さん:
面白い植物もいっぱい入っていて、イングリッシュガーデンってもっとかっちりしてるんですけど、こんなんでいいんだ(笑)みたいな事が実感できた場所です。
ベス・チャトーさんの庭も植物が適材適所に入れられていて、ドライなところにはドライなものとか……土地を改良するのではなく、その土地で育つものを選ぶっていう考え方もいいな、と思いました。
うちも30cmぐらい掘ったら粘土地なので、結構カチカチで最初は酷くて。水はけが悪かったり、土が良い訳ではなかったんです。
ノームの庭も岩盤の上に作っているガーデンなので、下は山肌の石みたいになっています。
なので発想とか植物の使い方とか……イングリッシュガーデンもすごく好きなんですけど、よりデザイナーの個性が出るガーデンってすごく面白いですね。
同じ品種でも北海道で育つと背が高く、色鮮やかに。
花毎スタッフI:
上野さん:
だから北海道の方が2割、3割増しで大きくなりますね。肥料ですか?とか聞かれるんですけど、たぶん気候的な問題かと思います。
私は生まれも育ちも北海道なので、東京の状況を最初は知らなくて「これこんなに大きくなるのね」とか「こんなきれいな色に咲いてるの初めてみた」とか……
ルピナスなんかでも「これなんていう種類ですか?!」と聞かれるんです。
種は全く一緒でも、環境が違うと花も見え方も変わって、イングリッシュガーデンではなくて〈北海道ガーデン〉なんだなという考えに行き着くのですが。
花毎スタッフI:
上野さん:
そのかわりに北国でよく育つ白樺などを生垣の替わりとして使ってみたり、より北海道ならではの植物や文化、風土を大切に考えるようになりました。
それが自分たちの目指す「北海道ガーデン」だと思って現在は庭づくりをしています。
庭の中には小人がいっぱい隠れていて、見つけた子どもにはプレゼントも。子どもは夢中で小人を探し、親はその間にゆっくり見れる、親子で楽しめる仕掛けです。
赤い花は上野さんがお好きな「エキナセア」。下向きに付く花びらが特徴。
花毎スタッフI:
上野さん:
北海道で自生しているエゾクガイソウなどは北国らしく、のびやかさと背の高さがあるので野草の中では特に好きです。
本州でもクガイソウはありますが、エゾクガイソウは特別大きくなる品種なので、そういう北国ならではの植物も庭から発信して、オリジナリティを出していけたらいいなと思います。
帯広から旭川まで約320kmの旅が上野ファームで完結。
このルートで回ると決めた時に、周りからはこんなに長距離大丈夫?と心配の声が上がりましたが、実際走りだしてしまったら、なんということなく、楽しい旅に。
各ガーデンをご紹介いただいた真鍋庭園の眞鍋さんからは、最初にルートを作り尋ねた時に「北海道を知らない人が作ったってすぐわかるルートだね」と笑われたことが昨日のように思える、帯広から旭川までレンタカーで回った2泊3日の旅でした。
今回は尋ねることが叶わなかった上川郡上川町の「大雪 森のガーデン」と帯広の「紫竹ガーデン」。
そして各ガーデンのガーデナーの皆さんおすすめの初秋になった景色を見るために、今度はプライベートで北海道ガーデンを訪ねたいと、またプランを考え出しています。
次回からは北海道から一転、真夏の京都の旅がはじまります!
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上野ファーム
北海道旭川市永山町16丁目186番地
https://uenofarm.net/
冬季休業期間があります。営業時間、入館料などの詳細につきましては上野ファームのWEBサイトをご覧ください。
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