庭の中の人

ガーデナーや研究者、植物愛あふれる人たちが伝える、庭にまつわるインサイドストーリー。

第二十話「桜の味」

2022.09.23

study

ある秋も深まった日「おい、捕れたけど…どうすんだよ、コイツ…」と現場にいる庭師から電話がかかってきました。すでに朝晩は肌寒く、もう捕獲をあきらめていた時のうれしい知らせ!実はこのころ、私はずっと「モンクロシャチホコ」という桜の木につく毛虫を探していたのです。

季節によって発生する害虫たちはさまざまで、年単位で当たり年があります。どこそこであの毛虫が発生した、今年は発生時期が早いなど、害虫情報は現場の庭師同士で共有して、虫が出そうなところを確認し、早めに薬剤をまくといった予防を図ります。

以前、私が担当していた現場で、サツキツツジにルリチュウレンジというハバチの幼虫が大量発生しました。放っておくと葉が全部なくなってしまうくらい食欲旺盛…たまたま、殺虫剤を切らしており、このまま丸裸になってしまったらどうしよう、とドキドキしたことを覚えています。
それ以来、見るのも嫌だった害虫について検索するようになりました。敵を制すには、敵の情報をしっかり入れておくべきだと思ったからです。

お昼ご飯を食べながらでも、スイスイ検索ができるようになったある日。桜の木につく「モンクロシャチホコ」という毛虫のことを調べていたら、「モンクロシャチホコ 食べる」と候補キーワードが現れたのです。いったいどんな味がするのだろうか…調べれば調べるほど「美味しい」「味は昆虫の中で一番」などと出てくるのです。

庭園管理の現場では、桜の木にモンクロシャチホコがつくと、見た目の不快さから薬剤で殺虫してしまいます。しかし、モンクロシャチホコが美味しいという情報をWEBで見て以来、頭から離れず、どうせ殺虫するなら美味しく食べてあげた方がいいではないか…そんな思いが募り「モンクロシャチホコがいたら捕獲しておいて欲しい」と庭師の同僚たちにお願いしていたのでした。

手元に届いた毛虫は1匹。人生の中で虫を調理するのも食べるのも初めて、しかも貴重なモンクロシャチホコをどう調理したらよいものか。WEBには美味しいと書いてあったけれど…

結局、一人では不安なので、会社の近くに住んでいる同僚の自宅のキッチンを借りて揚げ焼きにすることに。味付けは迷ったあげく、塩味ではなく、砂糖をまぶして風味を活かした味付けに決定。
割り箸を桜の枝と思ったのか、ひっついて離れないモンシロシャチホコと格闘の末に出来上がったほかほかの「モンクロシャチホコの砂糖和え・1匹」を、うやうやしくタッパーに入れ、会社に帰りました。

もしかしたら新しいビジネスアイディアが生まれるかもしれないと、応援してくれていた上司と3人で三等分にして試食することに…恐る恐る口に入れると、情報通りの美味しさ!
桜の葉しか食べていないモンクロシャチホコは、ほのかな桜の香りが口の中にふわりと広がり、まるで桜餅のような味わい。心配していた毛も口の中で気になることはなく、香ばしくサックリした食感に。試食した3人ともが、「美味しいね、これ」と笑顔になったのでした。

冬が近づいていたため、その年はもう捕まえることはできませんでしたが、試食で味をしめた私は、会社の新規プロジェクトに向けて、その後もモンクロシャチホコを追い続けました。

結局、プロジェクトにはなりませんでしたが、秋になると、この初めて食べた毛虫の思い出がふと頭をよぎります。そして、私のわがままに付き合って、木の上の方にいる毛虫をなんとか確保してくれた庭師の人たちには、いまでも感謝いっぱいです。

いまではだいぶ昆虫食が身近になり、大手企業が商品化したり、おしゃれなお店ができたり、自動販売機で購入できるようになりました。
食に対する好奇心やチャレンジ精神は、いつの時代も人間が持ち合わせているものなのだと思います。
例えばカニ。今では高級食材として一般的ですが、初めてカニを食べようとした人は、きっと周りの人から「あいつヤバいモノ食おうとしてるぜ!」と言われていたに違いない。
ほかにも人類初のウニやナマコ、はたまた、死と隣り合わせのフグや松茸などのキノコ類なんかも、美味しいと認知されるようになるまで、時間がかかったのではないかと思うのです。
しかし、最初は近づきにくかったであろう、それらの食材も、今ではどれも高級食材。環境にもやさしい昆虫食は将来もっと食べられるようになっていると、私は確信しているのです。

はつやま さちこ

高校卒業後、英国へ留学。ロンドン郊外にあるOaklands CollegeのFloristry学科に在籍し、イギリスの国家資格を取得。2008年第一園芸株式会社に入社。ネット事業部を経て緑化事業部へ。各国大使館などを担当していたガーデナー。
現在は子育てのため一旦、退職して家庭生活を満喫中。好きなことは食べ歩き、無計画旅行。昆虫食推進派。