庭の中の人

ガーデナーや研究者、植物愛あふれる人たちが伝える、庭にまつわるインサイドストーリー。

第二話「庭師の出で立ち」

2020.07.22

study

庭師の基本的な恰好といえば、頭には手ぬぐいをまき、腕には手甲(てっこう)と呼ばれる手首に巻く保護具を付けます。これは手首や血管を守り、袖口から虫や葉が侵入するのを防いだり、袖口で木を傷つけたり引っかけたりするのを防ぎます。足元は濃藍色の足袋と脚絆(きゃはん)と呼ばれる足に巻く保護具を装着します。

また、庭師や造園業の職人が履くものといえば、乗馬ズボンです。腰から太ももにかけてはゆとりがあり、ひざから下は引き締まっているズボンです。上半身は割と自由に鯉口やポロシャツなど、自分に合ったものを着ています。さらにその上に法被(はっぴ)を羽織っている人もいます。これらをすべて身に着けると、全体的に黒色になります。お祭りでお神輿を担ぐ人のような恰好、といったらわかりやすいでしょう。

庭師のリストバントともいえる「手甲(てっこう)」

古風ないで立ちで毎日仕事をしている職業って珍しくありませんか?
初めて現場に行ってその作業を見た時、仕事の内容よりも何を着ているかに目が釘付けとなってしまいました。
長いロープを巻き付けながら、颯爽と木に登る筋肉質な姿はまさに「忍者」のよう。全身黒づくめの忍者集団が日本庭園の木々に散らばっていく姿を見たときは、思わず江戸時代にタイムスリップした気分でした。
元々が武家屋敷などで、立派な日本庭園がある大使館での庭園管理も多くありましたので、外国の人も作業風景を見て思わず「Oh Ninja~!」と喜んでいたのを覚えています。

足袋と脚絆(きゃはん)足袋の長さは人それぞれの好みが。

当時は男性が多かった職場ですが、最近では「くノ一」も多く、女性庭師の活躍も増えています。
私の知っている女性庭師たちは、たいてい竹を割ったような性格で、度胸のある人が多い気がします。当然ですよね、命綱だけでするすると10メーターくらいの木に平気で登っていくのですから。
男女問わず度胸がないとできない職業だと思います。

こんな風にいつも手ぬぐいをかぶっています。

世間ではまだ女性庭師は珍しいのか、木の上で作業していたりすると道行く人からも「あら、女性の庭師さんなんて珍しいわね」とか「一緒に写真を撮りましょう」と、よく声を掛けられるらしいのです。
でも、そこはやはり職人気質。
「作業に集中できない」「はかどらない」「中断して下に降りていくのはちょっと…」というふうで、声をかけられるのを避けるために、髪は短め、渋い色の手ぬぐいを頭に巻いてヘルメットを深くかぶり、男性の姿に化けて作業をしているという人もいました。
そんな彼女のうしろ姿の凛々しいこと。
これからも庭師だけではなく、いろいろな職業で女性の活躍の場が増えていけばいいな、なんて思います。

はつやま さちこ

高校卒業後、英国へ留学。ロンドン郊外にあるOaklands CollegeのFloristry学科に在籍し、イギリスの国家資格を取得。2008年第一園芸株式会社に入社。ネット事業部を経て緑化事業部へ。各国大使館などを担当していたガーデナー。
現在は子育てのため一旦、退職して家庭生活を満喫中。
好きなことは食べ歩き、無計画旅行。昆虫食推進派。