庭の中の人

ガーデナーや研究者、植物愛あふれる人たちが伝える、庭にまつわるインサイドストーリー。

第十二話「動物との共存」

2021.05.21

study

外で作業していると、東京都心のど真ん中でも見慣れない動物とばったり出会うことがあります。大都会のど真ん中でも、さまざまな動物がひっそりと身を隠しながら、時に大胆に暮らしているものです。

ある時、管理していた庭園の池に舞い降りてきた一羽の華奢なサギ。
しばらく池の中に突っ立っているなあと思いきや、いきなり大きな鯉をくちばしで捕まえたかと思うと、頭から丸のみしてしまったのです。大事に育てられている鯉をサギが食べてしまったというのも衝撃でしたが、体格に似合わぬくらいの大きな魚を、よく丸呑みできるなあと感心してしまうほどでした。
庭園の池に糸を張っているのを見かけますが、鳥から鯉を守るための対策だったりするんですね。

大手町のオフィス街、人も車も行き交う通りの生垣で、大きなヘビが日向ぼっこをしていたところに出くわしたことがあります。
その子がどこから来たのか分かりませんが、近くには日比谷公園があるため緑豊かで、界隈から出るごみを荒らすネズミなどの小動物も豊富そう。外敵も少なそうだし、確かにヘビにとって快適な雰囲気ではあります。こちらは、こんな街のど真ん中にヘビがいるとは思ってもみないので、さすがにヘビだと気が付いたときには「ひゃゃっ」と変な声が漏れました。猫がキュウリをヘビと間違え、驚いてジャンプするのも納得。ヘビってなんだか「おいらに近づいたら危ないぜオーラ」が出ているんですよね。

しばらく観察していると意外とたくましく生きているもので、U字の排水溝を上手に使って自在に移動していくのです。排水溝なら、確かに目立たないし、水がたまっていても、泳ぎが得意なヘビには問題なし。
都会の中で暮らす知恵みたいなものでしょうか。しばらくすると人目につかないようにスルスルと溝に身をすべらせ、どこかへ去っていってしまいました。あまりにも、ほうきをもってうるさくする人間がいるものだから、あちらも嫌気がさしたのでしょう。

ほかにも、都内には各国の大使館が点在していますが、敷地の広い大使館にはお庭だけではなく、林や森のような大自然が残っていて、さまざまな動物と遭遇することがありました。
芝生にポカポカと穴があいていると思ったらモグラだったり、どこから来たのか、カメが勝手に花壇に産卵していたり。きれいに刈られた芝生をトイレ代わりに使う贅沢なアライグマなどなど。
姿は見えないけれど、動物の息遣いは意外と近くに感じることができました。

ある時、見慣れない形状の茶色い落とし物がよく目撃されるようになりました。調べてみたらどうやらそれはハクビシンのフンだったらしく、さっそく自治体に連絡し罠を仕掛けることになりました。
ちなみに、ハクビシンの好物はフルーツやお菓子。甘いものが大好きなハクビシンは、とりわけバナナとキャラメルコーン(東ハトさん、私も好きです)が大好きということで、それをおとりに捕獲を試みることになりました。

警戒心が強いのでなかなか捕まらないのですが、このおとり用のバナナとキャラメルコーン、お茶の時間に庭師のおじさまたちがパクパク食べていたりするんです。「さてはハクビシンが化けているんだな~!」なんて冗談を言いながら笑って過ごす、休憩タイムのおやつともなります。そして、なんとか御用となったハクビシンは自治体の方が連れて行ってくれました。

どこからともなくやってくる動物たち。自然の少ない東京都内では、生きていくのも大変そうです。害獣と呼ばれて、コントロールされている動物もいるけれど、地球からしたら人間のほうがよっぽど害獣なんじゃないかと思います。
人間も驕ることなく、自然の一部であるということを改めて自覚し、ほかの動物たちとも仲良く共存していかなくてはいけませんね。

はつやま さちこ

高校卒業後、英国へ留学。ロンドン郊外にあるOaklands CollegeのFloristry学科に在籍し、イギリスの国家資格を取得。2008年第一園芸株式会社に入社。ネット事業部を経て緑化事業部へ。各国大使館などを担当していたガーデナー。
現在は子育てのため一旦、退職して家庭生活を満喫中。
好きなことは食べ歩き、無計画旅行。昆虫食推進派。