庭の中の人

ガーデナーや研究者、植物愛あふれる人たちが伝える、庭にまつわるインサイドストーリー。

第十四話「蜂とともに暮らす」

2021.08.23

study

真夏に現れる美しいハチ「ナミルリモンハナバチ」

今回は「庭の中の人」スピンオフ回。第一園芸の蜂好きスタッフ、加藤が蜂と植物の深い関係をマニアならではの視点でお届けします。

都市公園や庭園で良く見られるハチ類 キイロスズメバチ(上段左)、ヒメクモバチの一種(上段右)
シリアゲコバチ(下段左)、チュウレンジバチ(下段右)

毎年夏から秋にかけて増加するハチによる刺傷被害。
第六話「虫との闘い」にもみられるように、庭園管理の現場では毎年悩みの種となっています。例年この時期になると被害に関する報道が相次ぐことに加え、ハチの体色が黄色、黒、赤などのいわゆる警戒色を持つものが多いことから、ハチは人を襲う危険生物として扱われがちです。

さて、みなさまはこの「ハチ」についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。
上述の危険生物というイメージの他、女王を中心に集団で巣を造る、ハチミツを生産してくれるといったイメージを持つ方が大半かと思います。
しかしながら、こういった生態を持つものはごくごく僅かです。
多くは単独で暮らし、巣を持つものや持たないもの、他の昆虫に卵を産み付ける「寄生」を行うもの、中には植物に産卵し、幼虫は葉を食べて育つものなど、その生態は多岐にわたります。

巣に集まるコアシナガバチ(左)、巣穴を掘るナミツチスガリ(右上)
泥で造られたアメリカジガバチの巣(右下)

ここまで話を読み進めると「身近にこんなにハチがいるなんて恐ろしい…」と思われる方も少なくないかと思います。
でもご安心ください。ほとんどのハチは大変おとなしく、よほどつまんだりしなければ人を刺すことはありません。
例外的に、アシナガバチやスズメバチのように集団で巣を造るハチは、巣に危険が迫ると家族を守るために必死に外敵と闘う性質があるため、この巣に不用意に近づいたり、危害を与えると人を襲います。特にスズメバチは、見張り役の個体が巣の付近を警戒しており、この個体が威嚇の為に放つ「カチ、カチ」という警戒音を無視して更に巣に近づくと、一斉攻撃が始まります。
刺傷被害の多くは、ハイキングや庭園管理などの野外活動を行っている際に、知らず知らずのうちに巣に近づいてしまったり、巣を破壊してしまったことによるものが多いです。これらの巣は、屋根裏や茂みの中のような隠蔽的な場所に造られる傾向があります。こういった場所で活動する際は、「もしかしたらハチの巣があるかもしれない」ということを念頭において行動すると共に、巣を発見してもむやみに近づかないことが、被害を未然に防ぐためのポイントとなります。筆者は幸運にもまだハチに刺されたことはありませんが、それは常に絶妙な距離感でハチと接しているからだと考えています。

人々に忌み嫌われがちなハチですが、その存在は私たちの生活に利益をもたらす面も数多くあります。
例えばアシナガバチの仲間の多くは、庭園や畑で害虫となるチョウやガ等の幼虫、いわゆるイモムシを幼虫のエサとする益虫としての側面を持つと共に、捕食者として生物多様性のバランスを維持する役割も果たしています。
また、ミツバチを代表とするハナバチの仲間の多くは、植物の花粉を運び、果実を実らせる役割を果たします。

イモムシを襲うキアシナガバチ(左)、花の蜜を吸うキムネクマバチ(右)

安全のため巣の駆除という選択肢を取ることは重要ですが、私たちの生活に支障が無い範囲においては、ハチ達の生きざまをそっと見守っていただきたいと願っています。

次回は植物と蜂たちの不思議な関係をご紹介します。

文・写真 加藤優羽

加藤 優羽

2019年第一園芸株式会社に入社。社内では経理関係業務を担当。

小学生時代、図書館でたまたま手に取ったファーブル昆虫記の「狩りをするハチ」の章を読んだことがきっかけで、ハチに興味を持つようになる。
現在もハチを求めてフィールドワークを継続中。