庭の中の人

ガーデナーや研究者、植物愛あふれる人たちが伝える、庭にまつわるインサイドストーリー。

第十五話「庭の恵み」

2021.09.23

study

以前、マツの木の下で、可愛らしい新芽が出ているのを発見した庭師さんが、それを見てとても喜んでいたことがあります。
「この子を育てる!」といって大事にしていました。
実生もの(種から発芽して育った植物のこと)を見つけるとテンションが上がる気持ち、私もよくわかります。もちろん自然界では当たり前のことなのですが、生産された苗ものを大量消費していると、自然に種から発芽した子たちに対して母性本能を抱くといいますか、なんとなく「よく頑張って発芽したね」「えらいね」って気持ちになってしまうのです。
庭師はみんないつも自然体で、意識せずとも自然に優しいところがかっこいいなと思います。

梅の木がある庭園で働いていると、梅の実が手に入ることがあります。
そんな時、現場の詰所では梅ジュースを作ります。自分たちが管理する、梅の木からの贈りものが美味しい梅ジュースなのです。適度にクエン酸が採れる梅ジュースは、過酷な夏の現場にもぴったり。
みんなが漬けている瓶をみて、自家製って素敵だなと思ったのがきっかけで、自分でも漬けるようになりました。

6月に漬けた梅ジュース。すべての梅の実たちに、まんべんなく液を絡ませたくて、気にかけながら瓶をゆるすこと数か月。美味しくなあれと毎日念じた甲斐もあり、琥珀色の爽やかなジュースができました。
お風呂上りに飲むとまた格別で、一日の疲れを癒してくれます。子どもでも飲みやすいため、あっという間になくなっていきます。ジュースから取り出した梅は、煮詰めてジャムに。
大事に少しずつ飲みながら、また来年作ろうねと約束する幸せな時間です。
大人としては、ジュースのあとに完成が控えている梅酒というお楽しみもあります。(ジュースは1~2か月、梅酒は半年~1年ほど寝かせて完成です。)
この時期は梅の恩恵をめいっぱいいただきます。

庭師やガーデナーたちは自然を利用する力に秀でている人が多いと思います。
梅の実や銀杏のみならず、落ちている小枝や木の実を使って素敵なオーナメントやリースを作ったりする人もいれば、竹で昆虫を作るのが上手な人もいました。
廃材などを利用した便利なグッズ、例えば、三ツ手ちりとりに長くて太い枝を取り付けて、しゃがまなくてもごみを集められるちりとりにトランスフォームさせていたり、自分たちで集めた落ち葉を使って堆肥を作ったり。どこの現場でも、さまざまな工夫がなされていました。

伐採された樹木が植木鉢を載せる台として活用されているのを見たときは、ここまで再利用されているのかと思わず笑ってしまいましたが、とっても愛を感じました。
丸太になってもなお大切にしてあげているのですから、伐採される前の樹木はよりいっそう愛されていたのでしょう。これもまた、庭からの恵みですね。

 

はつやま さちこ

高校卒業後、英国へ留学。ロンドン郊外にあるOaklands CollegeのFloristry学科に在籍し、イギリスの国家資格を取得。2008年第一園芸株式会社に入社。ネット事業部を経て緑化事業部へ。各国大使館などを担当していたガーデナー。
現在は子育てのため一旦、退職して家庭生活を満喫中。
好きなことは食べ歩き、無計画旅行。昆虫食推進派。