第十六話「続・蜂とともに暮らす」
2021.11.16
知study
セイタカアワダチソウに集まるニホンミツバチ
「庭の中の人」スピンオフ「蜂とともに暮らす」の続きのお話です。
第一園芸の蜂好きスタッフ、加藤が蜂と植物の深い関係をマニアならではの視点でお届けします。
暖かい日に花壇や道端などでふと花を見ると、チョウやアブの仲間に混じり、大小さまざまな種類のハチがブンブンと集まっている姿を見ることが出来ます。
このハチをよくよく観察していると、種類を問わず様々な花に集まるハチもいれば、ある特定の花にしか集まらないハチもいます。
後者の例として、ウツギの花にのみ集まるウツギヒメハナバチというハチがいます。このハチは、名前の通りウツギの花が大好物で、毎年必ずこの花が開花する5~6月にぴったりと合わせて出現します。その後成虫は地中に巣を造り、ウツギの花が終わる時期には姿を消すような生活史を送ります。
花に集まるハチ類
アオスジコハナバチ(上段左);ミツクリヒゲナガハナバチ(上段右);セグロアシナガバチ(下段左);ウツギヒメハナバチ(下段右)
ウツギヒメハナバチの例は、ハチが特定の花に集まる例ですが、逆に、花が特定のハチを集める場合もあります。ここでは特に、ツリフネソウとマルハナバチの関係について紹介します。
ツリフネソウの花
ツリフネソウは、山地の湿地や沢沿いなどの湿った場所で普通に見られる野草で、夏から秋にかけ、赤紫色の鮮やかな花を咲かせます。
この花は形がかなり特徴的で、細い花茎の先に袋状の花が付いており、この様子が、吊り下げられた帆掛け船に似ていることから、先人は「ツリフネ」という名前を付けたようです。また、花の内側の上部には雌しべの先端を囲うような構造の雄しべがあり、奥深くには蜜を蓄えた距(きょ)と呼ばれる細く渦巻き状に伸長した部分があります。
ツリフネソウの花の構造
花の内側(左:矢印は雄しべ);渦巻き状の距(右)
では、なぜツリフネソウの花はこのような変わった構造をしているのでしょうか。
それは、袋状の花にすっぽり体が収まるような大きな体を持ち、距の奥深くまで届く長い口を持つ送粉者を誘うためです。その送粉者とは、マルハナバチです。
マルハナバチがツリフネソウの蜜を求めて花の奥深くに潜り込むと、上部にある雄しべが背中に擦れ、花粉が付きます。その後蜜を吸い終えたハチは狭いスペースを後ずさりしながら外に出るため、再び背中に花粉が付きます。このハチがまた別のツリフネソウの花に潜り込むと、今度は花粉の付いた背中が雄しべ近くの雌しべにあたり、確実に受粉されるという仕掛けになっています。
トラマルハナバチ
花に飛来した個体(上段左);花に潜り込む個体(下段左);横から見た長い口器(右)
マルハナバチはミツバチ同様に様々な花に集まりますが、「マルハナバチ専用」ともいえる構造を持つツリフネソウの花が多い地域では、この花に集中するようになります。
なぜなら、この花の構造はライバルとなる他のハチが利用しにくく、この花に集まれば蜜を確実に獲得できるからです。
ツリフネソウ側としても、花には必ずツリフネソウの花粉が付いたマルハナバチが訪れるので、確実に受粉が行われるという利害が一致した良好な関係となっています。
こういった関係は様々な花で見られ、その相手や戦略も様々です。
私たちを魅了する植物の葉や花の色、形の美しさには、自然界の様々な環境で生き残るための何らかの意味があるに違いありません。
皆さんも庭園や花屋などで植物に出会ったら、その美しさの意味についても考えてみてはいかがでしょうか。
文・写真 加藤優羽
加藤 優羽
2019年第一園芸株式会社に入社。社内では経理関係業務を担当。
小学生時代、図書館でたまたま手に取ったファーブル昆虫記の「狩りをするハチ」の章を読んだことがきっかけで、ハチに興味を持つようになる。
現在もハチを求めてフィールドワークを継続中。
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