庭の中の人

ガーデナーや研究者、植物愛あふれる人たちが伝える、庭にまつわるインサイドストーリー。

第十九話「願い」

2022.03.21

study

「あなたを植物に例えるなら、どんな植物ですか。その理由も教えてください」
これは以前の勤務先で行われた、新卒採用試験での質問だそうです。

植物を扱う会社の入社試験の面接であれば、こんな質問も想定の範囲内では?という方がいらっしゃるかもしれませんが、私はこの質問にうまく答えられる気がしません。
とっさに答えるなら、自分のことをどんな植物に例えればいいのか、思いを巡らせてみましたが「日の当たる方に向かって咲くヒマワリ」「踏まれてもめげないタンポポ」それとも「まっすぐしなやかに伸びる竹」とか?
う~ん、どれもしっくりこない。そして面接官の印象に残るような回答をするのってとっても難しいですね。

そんな面接があった年に入社し、私が在籍していた部署に配属された後輩に「自分を植物に例えたら」という質問になんて回答したのかを聞いたことがありました。その後輩は自分のことを「オリーブ」と回答した、と少し照れながら教えてくれました。

その理由をたずねたところ、オリーブは自家不和合性が強い植物。
自家不和合性とは自分自身の花粉では受粉できないため、他者の花粉がないと結実しないことを言います。つまりオリーブをたくさん実らせたい場合は2品種以上を植える必要があるわけです。
そんな性質になぞらえて「一人ではできないことも、周りの人たちと協力しながら成果を上げていきたい」というようなことを面接で語ったようです。
お手本のような回答に思わず拍手。
面接の場でこんな機転の利いた回答ができるなんですごいですよね。仕事もスマートにこなすし、とても優秀な後輩でした。今では会社でなくてはならない存在になっていることでしょう。

オリーブは平和の象徴とされていて、花言葉はその名も「平和」。
この理由は旧約聖書のエピソードにある「ノアの箱舟」にあり、大洪水の後、陸地を探すために放った鳩がオリーブの枝を咥えて戻ってきた逸話に由来します。
国連の旗は世界地図がオリーブの枝で囲まれていたり、アメリカのパスポートや紙幣などにはハクトウワシの足にオリーブの枝が握られていたり、さまざまな国でも国旗や国章にオリーブが使われています。つまりオリーブは万国共通で平和への願いを示しているわけです。

でも世界では混乱が続いていてテレビをつけると心が痛むニュースばかり。21世紀に起きている事件とは思えないほどの凄惨な出来事に衝撃を受けます。

自家不和合性のオリーブのように、他者と補い合いながら、お互いを尊重しあう平和な世界になりますように。
世界の人々が心穏やかに暮らせる日がきますように。
オリーブに平和の願いを込めて。

はつやま さちこ

高校卒業後、英国へ留学。ロンドン郊外にあるOaklands CollegeのFloristry学科に在籍し、イギリスの国家資格を取得。2008年第一園芸株式会社に入社。ネット事業部を経て緑化事業部へ。各国大使館などを担当していたガーデナー。
現在は子育てのため一旦、退職して家庭生活を満喫中。好きなことは食べ歩き、無計画旅行。昆虫食推進派。