庭の中の人

ガーデナーや研究者、植物愛あふれる人たちが伝える、庭にまつわるインサイドストーリー。

第十八話「小さな庭」

2022.05.31

study

近ごろ、おうち時間が増え生活環境が変わる中で、家にグリーンを飾ることにもいっそう関心が高まっているそうですね。
庭師の友人が最近、苔玉を作るワークショップを始めました。自分で素敵な苔玉が作れるということも魅力ですが、庭師に植物のことを聞ける珍しいワークショップでもあり、毎回盛況のようです。
私もさっそく、その苔玉ワークショップに参加してきました。

自分で作った苔玉はとっても愛着がわきます

パキラ、アンスリウム、テーブルヤシ、シンゴニウムなどの室内に向く観葉植物や、ボケ、トクサ、トキワシノブといった屋外向きの植物がずらりと並べられ、自分と相性のいい子を選びます。
毎回、植物のラインナップは違うようですが、コデマリ、ヤマアジサイ、ネムノキなど庭木として人気の植物が豊富で、こうしたチョイスはさすが庭師だなあと感心します。

完成したらどこに置きたいのか、その場所の日差しはどうか、水を上げる頻度は多いのか少ないのか、メンテナンスのしやすさはどうかなど、性質の違う子たちとじっくり向き合いながら、好きな植物を選んでいきます。
私は面倒くさがり屋なので、水をたくさん欲しがる子とはうまく付き合えたことがありません。
家にあるのは2週間くらい水をあげずに放っておいても大丈夫な子たちばかり。自分の性格や生活スタイルも考慮しながら選ぶと間違いが少ないと思います。
そして最後はフィーリング。「第一印象から決めていました!」と、私は最初から目をつけていた「ソフォラ・リトルベイビー」というマメ科の植物を選びました。

友人先生の講義を聴きながら、土をこね、植物を土で包み、団子状に丸め、上から苔で包んだら苔玉の完成です。
土をこねているときの雨の日を思い起こすような優しいにおいや、湿った苔の、森の中にいるようななめらかな手触り。
水をあげたときに出るプクプクプク…という柔らかい音など、無心で植物と対峙できる贅沢な時間に癒され、五感すべてで楽しんだワークショップでした。

「木の剪定方法を教える講座とかは考えなかったの?」と私が尋ねると、庭木のお手入れや剪定の仕方を教えるってことも考えたけど、東京周辺ではマンションに住んでいたり、庭があっても狭かったり、木を植えていなかったりする人も多い。だからもっと気軽に始められものがいいなと思って苔玉にした、と教えてくれました。
苔玉になっても、花が咲いたり、紅葉したり、冬に落葉する子もいて、まるで手の中に広がる小さなお庭です。

ワークショップに参加した人たちが作った小さな庭たちを並べて

庭園管理の現場では「イチョウの木、落葉すると掃除が面倒だから、落葉する前に早く枝を切って」とか「ヤマモモの木、実がなると地面が汚れちゃうから伐採して」というような依頼はよくあること。
確かに掃除するのは面倒くさいし効率的なオーダーですが、木にとっては、最後まで葉に日光が当たって、養分をためてから落葉するのがよい筈だし、実が生るのも次へ繋ぐという理由があるわけで…
苔玉という小さな庭を通じて、ふと立ち止まって自分の周りにある自然に興味を持ってもらえたらいいな、少しでも木に興味を持ってもらえるきっかけになればいいな、と話していました。

忙しい毎日の中でも、植物から季節の移ろいを感じたり、庭掃除に時間を割いたり、生った実をちょっとつまんでみたり…そんなおおらかな気持ちを大切にしたいと思った一日でした。

はつやま さちこ

高校卒業後、英国へ留学。ロンドン郊外にあるOaklands CollegeのFloristry学科に在籍し、イギリスの国家資格を取得。2008年第一園芸株式会社に入社。ネット事業部を経て緑化事業部へ。各国大使館などを担当していたガーデナー。
現在は子育てのため一旦、退職して家庭生活を満喫中。好きなことは食べ歩き、無計画旅行。昆虫食推進派。