花の旅人

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〈京都編〉第六話 名宿が手がける美しいしつらいのカフェ 「遊形 サロン・ド・テ」

2018.11.03

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京都は街中にも美しい植物に出会える場所がそこかしこにあります。
大極殿本舗 六角店 栖園に次いで訪ねたのは、創業300年余年、洛中の名宿「俵屋旅館」が手掛けるカフェ「遊形 サロン・ド・テ」です。

「遊形 サロン・ド・テ」は、私が京都を訪ねる度に植栽を見たくて必ず伺う、植物が美しいカフェ。
今回は取材ということで、じっくりと拝見させていただきました。

建物は明治時代に建てられた町家を改装したもの。京都の方々は古いものを大切に、そして現代的にアップデートして、さりげなく取り入れるのが本当に上手です。

複雑に見える植栽も個々に植物を見てみると、とてもシンプルな構成になっていることに驚きます。
入口付近に植えてあるのは、初夏に白い総苞(そうほう)をつけ、秋の紅葉も美しい山法師(やまぼうし)の木、糸のように細い葉が涼やかなイトススキ、秋に黄色の花を付ける艶のある丸葉が美しい石蕗(つわぶき)、木々の足元には竜の鬚、そして南西の位置には南天が。
植物の四季の変化や特性が考えられている上に、お店の雰囲気に合わせて絶妙なバランスで配置された、さりげないけれど見ごたえのある植栽です。

店内は町家ならではの細長い空間に、北欧の名作家具や照明がゆったりと配置された、とても落ち着いた雰囲気。窓越しから見る山法師も美しい。

町家ならではの坪庭を望む席も。ちょこんと置かれたバカラの鳥が彩りを添えます。

丘のような起伏をつけた坪庭は、全体がしっとりとした苔で覆われ、左手には枝ぶりが涼しげな青膚(あおはだ)* の木が。そして黄梅(おうばい)、南天、羊歯(しだ)、竜の髭といった植物が絶妙なバランスで配されています。
この起伏と植物の配置が、囲われた空間を立体的で広がりを感じる空間へと変化させています。

* 青膚(あおはだ)
樹皮の内側が緑色をしていることから、青膚の名が付いたとされる落葉樹。

別の席から見る坪庭は同じものを見ているとは思えないほど趣が異なり、どちらの方向からも座った位置からが最も美しく見えるように工夫がこらされています。

盛夏の坪庭を眺めながら、名物の「俵屋のわらび餅」とお抹茶をいただきました。
本わらび粉で丁寧に作られた極上のわらび餅。青々とした竹筒に盛られ、目にも涼しげなしつらいです。

もうひとつは季節のデザートのセット。私たちが伺った時は「白桃のジュレ」がメニューに。
蓋付の可愛らしい器の中に、たっぷりの白桃をゆるめのゼリーで寄せた、贅沢なデザートです。
セットのコーヒーはアンティークとおぼしき、とても美しいデザインのコーヒーポットで供されます。

京都の街中で、通り過ぎてしまいそうな、さりげない雰囲気の佇まい。
しかし、シンプルながらも考え抜かれた植栽が、静かに存在感を与えている……俵屋旅館にも通じるエッセンスが散らばめられた「遊形 サロン・ド・テ」はやはり極上のカフェでした。

遊形サロン・ド・テ(休業中)

京都市中京区姉小路通麩屋町東入ル北側