第七十一話 「十月 寒露 霜降」
2022.10.08
暮life
澄む大気
名月から、早くも一月。
十三夜を迎え、今月も月の美しい季節が続きます。
よい音を響かせている小さな虫たちはいちはやく季節のうつりかわりを察知して、その羽音は重みのある低音に揃っていきます。
今の時期の宵、足をとめて、ただその音に耳を傾けることが叶うなら、全身に音が降り注ぐでしょう。
ちなみに海の哺乳類、イルカや鯨は音波を出して、跳ね返ってきた音で、そのかたちを認識するそうですが、人間がその音波を浴びるとリラクゼーションになる、という考え方がありました。
虫の音にそういう効果があると聞いたことはありませんが、立ち尽くしてしまうほどの虫の合唱の中に佇んでいると全身に音が響き渡ります。
音浴しているうちに、気持ちや身体の歪みのあるところが、本来の自然の姿に導かれる、そんな気持ちになってくるものです。
澄んだ大気の中、月の光の下で、香る金木犀や草の香の中で虫の音を浴びる、これは大都会の中でも、できる楽しみです。
音のシャワーを浴びられる時期はそう長くはありません。
月の光とともに、音浴や秋の草花の香りや風に揺れる姿を楽しむ。
たくさんの季節の力が降り注ぐ秋を日々の中で、ひとつひとつ重ねていって冬を迎えるしたくの一つにしたいと思います。
菊花袋
旧暦の菊の節供や、月遅れの菊の節供のためのしつらいに菊花袋(きっかぶくろ)を。
菊花袋は古から続く菊の節供の習わし、茱萸袋(ぐみぶくろ)をお題に名付けたものです。
邪気払いと延命長寿を願う菊の力をいただくためのかたち。
今回は、正絹の袋に水引、茱萸の葉と色づく岩南天、野菊を入れて飾り結びをさげました。
なごりのほおずき
みえないものを照らす明かりとして夏やお盆に大切なお役を果たしてくれたほおずきが趣のある色を放ち庭に残っていました。
自然のままに咲き実るほおずきはほどよい大きさで彩りもよく、小さくても力のある姿をしています。
白い瓶子に入れてみるとさらに凛とした姿に。
また来年お会いできますよう、なごりの姿に手を合わせます。
萩
風に揺れるたびに小花を落とし、深まる秋を知らせるのは萩。
縁側に出して大きな瓶子に入れてみました。
すべての花が咲いて散るまでともに過ごし、こぼれおちる花もふくめて楽しみます。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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