第七十六話 「三月 啓蟄 春分」
2023.03.06
暮life
桜のリズム
今年も桜の季節がはじまりました。
山桜の中でも、毎年抜きん出て早く咲く近所の桜もいつも通りのペースです。
高く伸びていく梢枝の先までなぞるように見上げると、むくむくと蕾はふくらんですでに強い力を放っています。
この蕾が色づき、開きはじめれば、春の勢いはとまることなく、あちこちに満ちていきます。
様々な花は咲き乱れ、圧倒されるような季節が今年ももう直ぐやってくるのです。
溢れんばかりの春になってから季節の流れについていこうと思っても、圧倒されてしまうばかりでなかなか難しく、体調も崩しやすい。
春の到来は嬉しいけれど、そういう季節です。
春の勢いにはじき飛ばされないようにする秘訣は蕾が動きはじめたことに気づいたら蕾から花開いていくまでの道のりを一緒に歩くような気持ちで歩調を合わせて日々を過ごすこと。
休むのが難しい時も桜の蕾を頼りに身近にある桜の木を仰ぐ習慣を忘れずに。
波乗りするように季節の勢いに自然に寄り添い暮らす支えになってくれるでしょう。
ちなみに桜、と一口にいってもたくさんの種類があります。
寒い時期から早々と花屋さんに登場し冬を彩る啓翁桜、ひらひらと薄桃色に華やぐ河津桜、頑丈そうな枝を軸に小ぶりの花の東海桜、そして彼岸桜、染井吉野、山桜、八重桜と続いてまいります。
咲く時期の違いはもちろん、丈夫なもの、儚く散りやすいもの、それぞれに性分があるようです。
花に直接触れ、それぞれの個性を知る機会を重ねる度にどの桜も愛おしく、身近になってまいります。
桃の節供の御神酒口
今年の桃の節供には形代の雛と桃の節供の御神酒口(おみきぐち)を。
旧暦の桃の節供を迎えるまでの間、さまざまに花を入れてお供えにします。
御神酒口とは様々な行事に用いる、お供えものの一つ。
紅白の奉書を華やかに折り、河津桜と小手鞠を入れてあわじ結びに。
形代の雛は紅の奉書と檀紙で拵え雛人形の源流である形代に見立てたもの。
さまざまな災いがよい流れへと転じていきますように。
河津桜
骨董の蛸壷に河津桜の枝を入れ、散るもの、開くもの、両方を入れて時節の花いけに。
光と影、二つの世界がある古民家の中でひときわ河津桜は、華やぎ、光の手を伸ばし力を放つような姿に。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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