花月暦

日本の文化・歳時記研究家の広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたのエッセイ。

第二十二話 「冬至のこと」

2019.12.12

life

北半球では一年の中で、最も昼の時間が短くなり、夜がいちばん長くなります。
季節は立冬と立春の間、冬の真ん中にあたる頃。
草木は眠るように静かになり、太陽の光りはか弱く、頼りなく。
昼の二時をまわる頃にはもう、太陽の日差しにかげりがみえて、夕暮れが早いということを教えてくれています。

まるで太陽が衰えていくようだと、冬至に感じていた古代の人たちの不安や心配の大きさは、おそらく現代に生きる私の思う以上に大きく、とてつもなく大きな節目だったでしょう。
ぼんやりと昔の不安を想像することはできても、切実だったその気持に共感するのはなかなか難しいことです。

自然界の力を感じる能力に長けている古の人たちの暮らしの中から生まれた祭りは、自然のダイナミズムに満ちています。
太陽と火を重ね合わせ、大きな火を焚いて太陽の復活を願う「お火焚き」など、あるいは、新しい力を授けて各地を歩く神さまのお話もあります。

不安をかかえる一方で、早々と春へと続く道の息吹を感じる季節でもあったことが、こういった祭りや、一陽来復(いちようらいふく)のことばから伝わってきます。

興味深いのは、日本に限らず同じような発想が世界中に見られることです。
北欧の冬至もキリスト教と交じりあい、クリスマスのお祭りになったものだといわれています。

そのクリスマスを過ぎると、日本ではお正月のムードに一色に。
お正月の神さまを迎えるためのしたくをしながら、新年を無事に幸せに生きるために持ってきてくれるのが年玉、あるいは年魂などと呼ばれていたことを思うたびに、古い冬至の伝承とのつながりを感じています。

祝い松

拝み松とも呼ばれる家の中のお正月の飾りです。
東北や関西など、さまざまな場所で見られた古いかたちに着想を得て、餅花を添えて素朴に仕立ててみました。
今はもうほぼ、忘れさられてしまったよう飾りですが、私は古い拝み松の可愛らしい絵に、ずっと魅了され続けています。

古い資料に残された図絵に、長い年月積み重ねてきた人々の思いを感じて心躍る、そんな機会は多いのですが、中でも拝み松は特別です。

本来のかたちは、米俵や臼などに結びつけた大きな松に、餅花などの飾り物をつけていき、根元に、鏡餅やお供えものを供えたりします。
その資料を見つけたときの胸の高鳴りを忘れることができません。
クリスマスツリーとそっくりだと思ったからです。

冬でも力強い常緑の力を取り入れ、おそなえものや飾り、そして贈り物を置く気持ちや尊いものを迎えるためのしたく。そんな気持は自分の国だけでなく、広く世界に通じるような人間共通の気持ちかもしれない。そんなことを教えてくれた飾りです。

粟ぜんざい

寒くなると食べたくなるのが粟ぜんざいです。
もち粟をもっちりと炊いて、小豆は粒あんに、甘さは軽めに仕上げます。
粟の黄色は柚子色に近く、とりあわせもあざやか。
湯気の立つような寒い日にいただくと最高ですが、冷めても美味しくいただけます。
冬至の食べ物である小豆と、太陽に見立てた明るい色。
邪気払いの食べ物としてもおすすめです。

寿松の根引き飾り

趣きのあるバランスの寿松です。
今年は根引きのものが手にはいりました。
門松にするために、奉書と本麻で結びました。
日本人が松を愛する理由は、さまざまな説があります。
たとえば、万葉集では松を揺らす風の音が清らかで、長い命を保つ木だという下りが登場します。一本だけでも清らかな場にしつらえる力のある植物です。

屠蘇茶

元旦にいただくお屠蘇は古くから伝わる草花の飲みものです。
唐の時代の風邪の予防がはじまりだという説もあるお屠蘇ですが、邪気をはらい、心身を蘇らせるものとして、日本に広まりました。
我が家では、家族のことを思いながら、使いやすい生薬を合わせて、口に合うものをと考えながら、毎年お屠蘇を手作りしています。
今年は棗(なつめ)、茱萸(ぐみ)、紅花、肉桂(にっけい)、山椒の実、八角、などを入れたブレンドにしました。
お神酒につけてお屠蘇としていただいたあと、沸騰したお湯を注いでお茶にしても美味しくいただけます。
今年の発見は、ホットワインにしても美味しいこと。
それぞれのおうちの味のお屠蘇の配合、楽しんではいかがでしょう。

パール富士

月が富士山の頭にちょうど落ちるように見えるのをパール富士と呼んでいます。
太陽の場合はダイヤモンド富士。どちらも星を宝石に見立てています。
冬の夜空には、宝箱をひっくりかえしたような、という表現が。
クリスマス頃の星空で楽しみなのは、西の空です。
白鳥座が十字架が地上に立っているようなかたちに見えています。
日本では北十字星という名前で呼ばれることも。


第二十三話「小寒」へ
お正月も明けて新しい年のはじまりです。「寒」の季節の入り口です。
寒さは厳しく、草木花の世界はしずまり、深い眠りについているように見えます。

広田千悦子

文筆家。日本の文化・歳時記研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

写真=広田行正