第八十話 「七月 小暑 大暑」
2023.07.07
暮life
夏に染まる
ひぐらしの初音が聞こえてくれば真夏はもうすぐそこにきています。
初夏、はるか遠く旅をしてきたホトトギスも土地に馴染む頃。
昼に夜に夜明けに響く彼らの声で、山の広がりを感じます。
華奢だった青栗は日毎に膨らんでいくけれどその毬はまだ柔らか。
焦茶色に実る秋へと想いを馳せていると、雲間から時折のぞく強い日差しがその夢を一瞬で覚まします。
今はまだ静かな夕暮れですが、もうじき小さな虫たちの奏でる音楽が少しずつ少しずつ大きくなり、夜の甘い草木花の香りに包まれていくでしょう。
空の曇りがもう少しとれてすっきりとした青空が増えてくれば、夕暮れだけでなく真夜中から夜明けまで真夏の空気で満ちてまいります。
暑さは別として、すべてが夏へと染まっていくさまはよどみなく軽やかでここちよいものです。
7月といえば七夕の星伝説が人気ですが、新暦の日付で天の川を見るためには空気の澄んだ場所がおすすめです。
陰と陽の気がぶつかりあうという6月の夏至をあとにして少し軽くなってきた身体と心。
7月に入るとさらに荷物を下ろしてひらいていく季節がはじまります。
夜の夏の草木花の甘い香りと虫たちの音楽が、昼のエネルギッシュな空気をちょうどよいバランスへと保つ力を授けてくれます。
星と花を楽しむ夏。今年も厳しい夏を超えてまいりましょう。
星の花
ヒメヒオウギスイセンをたっぷり水を張った花入れに。
今年は南アフリカ生まれのヒメヒオウギスイセンの花が好きな気候だったようで朱色の美しい花と凛とした葉を涼やかに伸ばしています。
七夕が近づくと咲いてその時期を教えてくれる花だから私は星の花と呼んでいます。
ちょうど山肌に咲いている花と葉は光を透かし、鮮やかすぎず、大人しすぎず。
風に揺れる様は涼やかです。
背を高く伸ばし星へと気持ちを向けているように見えるから、眺めていると同じように心が空へ空へと向かいます。
七夕花合わせ 五色の糸
花を合わせ、見事さを競う花合わせという古い習わしがありました。
七夕花合わせには薄紫色の桔梗に、ヒメヒオウギスイセンなどを合わせてみます。
天まで届きそうなほど高く伸びた孟宗竹の若葉色の竹の枝を下ろしてもらって最後に花合わせに入れて笹飾りに。
五色の短冊や天の川に見立てた五色の糸をまっすぐに下げて今年の七夕飾りとします。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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