花月暦

日本の文化・歳時記研究家の広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたのエッセイ。

第八十四話 「十一月 立冬 小雪」

2023.11.08

life

初冬

各地で大きく季節感が異なるのが11月という季節です。

夏の余韻のような暑さが戻ってくるようなところもあれば、
とうに紅葉を終えて雪のちらつくところもあり。
訪れている季節が場所により大きく違います。
日本という国の大きさをあらためて実感する時節です。

たとえば、私の住んでいる三浦半島では暖かくて小春日和ということばを使いたくて仕方がない頃。
千両や万両の実は赤く色づきはじめています。
少しずつ紅葉したり、枯れ色の草葉が次第に増えていく中で、エネルギーに満ち溢れた場を作っているのは水仙です。
趣のある緑の新葉を地面からぐんぐん出して背丈を伸ばしています。

あと二ヶ月ほど後にやってくるお正月の舞台にきりりとした姿を添えてくれる草花たちが、こうして今、ゆっくり時間をかけてしたくをしています。

人間の方は、今年も残り少なくなってきたと思うと、なんとなく焦りがちになるものですけれども、目の前の季節を大切に味わうためにも先取りをしたり、先のための準備をちょっとお休みする、そんな時間も必要です。

外に出れば日向ぼっこが気持ちよく、おしゃべりしているような小鳥の声や、小さなベルのような優しいかねたたきの虫の音が聞こえてまいります。
心地よい空気の中で草木花を眺めて過ごせば自然に季節との波長が合ってまいります。

しつらいをする時はそんなふうに過ごしながら、草や花を選びます。
野にある姿が一番の花を、家に持ち帰り、決まったかたちに入れるということは、異なる世界に少しずつ折り合いをつけてもらって響き合うところを探すということでもあります。

今日はどんなお花や葉との出会いがあるかしらと眺め、草木花と言葉を交わすような時間を持てば、予期しない自分の気持ちとの出会いや、何かへと繋がる思いの種をいただくひと時になるでしょう。

 

初冬の花供物

春の色のようでいて秋の色。
心の奥まであたためてくれるのは背高泡立草の黄色。

しっとり落ち着いた色に染まり、穏やかな気分へと誘う今時分の蓬の花と葉はモダンな顔をしています。

ホトトギスはふっくらとした花に強い意志が伝わってくる野趣に富んだ葉。

こうした初冬の花を取り合わせて、旧暦の菊の節供に青藁でこしらえた花うつわにまとめてみます。
初冬の花供物には静けさと華やかさ、両方あるものをといつも考えています。

 

野菊

光ある方へと自在に手を伸ばす野菊の枝。
庭に出て流れや息の合う枝を見繕い、家に持ち帰ります。

野菊に触れていて感じるのは、花の儚さ、そして力強い葉、茎。

今回は二つの枝を青銅の経筒に入れてみました。
背景に常緑の山茶花の枝を入れたのは神聖な力が降り注ぎますようにと祈りを込めるため。

すべての事柄がよい流れへとつながりますように。

 

広田千悦子

文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

『花月暦』

『にほんの行事と四季のしつらい』

広田千悦子チャンネル(Youtube)

写真=広田行正