第八十五話 「十二月 大雪 冬至」
2023.12.07
暮life
常緑の祈り
冷たい北風が吹いて多くの木々が葉を散らす中、冴え冴えとしてくるのは松などの常緑の木です。
杉、松、椿、山茶花、オンコ、もみの木、トウヒ、ヤドリギなどなど、冬でも力強く緑色を保ち、寒さをものともしない姿です。
その佇まいに神聖な力が宿ると考えた人たちの気持ちは寒さが厳しくなればなるほどすっと心に届いてまいります。
私たちは12月になるとその常緑の力にあやかり、門松など様々な飾りを用意するわけですが、クリスマスツリーやリースなどなど、日本だけでなく様々な国にその常緑の祈りは広がっています。
たとえばヤドリギは落葉した木に寄生して常緑を保ちます。
古い時代は力があるものとして、ヨーロッパなどで儀式に用いたり、冬至の火祭りで炎の中に投げ入れることにより太陽の復活を願うなどの習わしがありました。
美しい実をつけ、モダンな姿のヤドリギは近年人気がありますが、北欧だけでなく、古くは日本でもその枝を髪に挿し「挿頭*」にするなどして長寿などを祈る習わしがありました。
ちなみに今年の我が家の12月の祝い松にと用意したのは、常緑のオンコです。なかなか大きくならないオンコは時を重ね、どっしりと育ち姿も枝の色も貫禄があります。
子どもの頃、庭に植えられていたので、秋から冬にかけて鈴なりになるとろりとした甘い赤い実を食べるのがとっても楽しみでした。種や枝には毒性があるので注意が必要ですが、子どもたちには気をつけながら食べる自由がありました。
古の世界にも目を向けてみれば、たとえば南ヨーロッパではオンコの木から作った小さな十字架を魔除にしたり、北欧神話ではオンコで人を石に変える話があります。
さて、忙しなくなりがちな12月こそ自分らしくありたいというのが毎年毎年の願いですけれども、今年は年月を重ねてきたオンコの大枝が、そんな気持ちを支えてくれる礎の祝い松になってくれるのではないかと期待しています。
*挿頭(かざし):草木の花や枝などを神事の際等に髪に挿すこと
祝い松
冬至とクリスマス、大晦日へと続く12月を寿ぐための祝い松に今年はオンコの大枝を。
冬を知らせる隈笹に金柑の実りと縁起のよい万両の実を散らし、神聖な力を宿す証しに照りのよい精麻を結べば、年月を重ねた赤褐色の枝も生き生きとしてまいります。
アイヌ語で神の木を意味する「オンコ」は、櫟(くぬぎ)、一位(いちい)とも。
朝廷の高官が笏*の材として用いた位の高い木とされてきました。
*笏(しゃく):貴族階級の服装に用いる。礼節や品位を示すための道具。
茶の花茶
奉書を敷き、茶の花を置いて師走の香り茶に。
干して乾いた茶の花は純白の花のなごりを残す色。
ジャスミン茶に似ている微香は賑やかな12月の心をそっと鎮めてくれます。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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