花月暦

日本の文化・歳時記研究家の広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたのエッセイ。

第八十六話 「一月 小寒 大寒」

2024.01.06

life

寒迎え

今年も新しい年がやってまいりました。

一年で最も寒いという「寒」の時期にはいりますが、冬とは思えないような暖かさにほっこりしたり、急な寒さに手がかじかむのを新鮮に感じたり。
まるで世の中の動きに合わせるかのように気温が大きく変化する、そんな冬を迎えています。

ただ、そんな極端な流れの中にあっても動じずに草木花は自分の道を歩いています。

梅や桜の枝に近づいてみると春に向けて新芽を膨らませていたり。
水仙がつぼみを弾けるように咲いていたり。
できればそんな草木花の力をいただきながら同じように、この寒さと流れをたんたんと歩くことができればと思います。

寒さが訪れると自然と人間はきゅっと体を縮こまらせる、そんな動きが多くなります。
肩のあたりをゆるませてみて初めてそうなっていることに気づくことも。
この時期、怪我しやすいのは寒さで体がかたくなっているから。
同じように心も硬くなりおだやかな気持ちを忘れている時間が多くなります。

そんな冬には自分への贈り物が必要です。
寒いだけですでに十分、体力気力を使い頑張っていることを、忘れないようするためのひと手間を。
自分を他人だと思って親切にするのです。

たとえば、火を眺めるひと時をもち、冬も草花のそばにいる。
火を焚くのが難しい人はお線香を焚いてみてもよいでしょう。
線香やお香の先に灯るのも小さな火です。
花を飾り、立ち上る煙そして小さな灯に目を向ける。
穏やかな祈りが自分の中から生まれてくるのを感じることでしょう。

それにしてもついこの間まで、百花繚乱ということばがしっくりとくるような姿を見せていた山茶花の花びらはすでにもう過去のもの。
花のめぐりは早く、儚いものです。
花はいつも時とは移り変わっていくものなのだという世の中の理を教えてくれます。

山茶花の紅色の花びらがすっかり縮れているのを寂しく愛おしく思っていると、呼ばれたような気がしてふりむくとそこには水仙の花がありました。
かじかむような手でそっと花びらをそっと優しく指ではさみ、花びらの厚みをありありと感じているとふっくらとして、溢れ出すようないのちの感覚が伝わってきます。

小正月の左義長

小正月は1月15日頃の祭りです。
お迎えしていた正月の神様をお見送りするために左義長、おんべ焼きなどと呼ばれるお焚き上げをします。
それに模したかたちを藁と松で拵えて小正月の飾りに。
火を灯せる場所がなくともかたちをつくり、旅立っていくお正月の神さまのお見送りを。

冬と春をつなぐ花

今年は水仙の花が開くのが例年より遅く、蕾をゆっくりと眺めています。
白い瓶子に水仙の花と蕾、そして熊笹を入れてみます。
まだ開いていない水仙の蕾をいけて花開いていくのを部屋の中で眺め待つ時間。
水仙は厳寒の中で冬と春をつなぐ花。
部屋の中でも季節の動きを楽しみます。

広田千悦子

文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

『花月暦』

『にほんの行事と四季のしつらい』

広田千悦子チャンネル(Youtube)

写真=広田行正