花月暦

日本の文化・歳時記研究家の広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたのエッセイ。

第九十二話 「七月 小暑 大暑」

2024.07.06

life

解き放つ空

七夕の月が今年もやってまいりました。
自然と空を見上げることが多くなります。

モノトーンにすっかり包まれた梅雨空も時折、うっすらと桃色になったり、豊かな色のグラデーションに。
思いがけない時に空を染めて私たちを喜ばせてくれます。

梅雨時の見事な空色との出会いは、晴天が続いた時のそれと比べたら嬉しさは格別です。
心は解き放たれてどこまでも広がっていきそうな気分に。

動きにくくなった心の隅々にまで染み込んで、美しい色にはすべてを蘇らせる力をもっているのだと思い出すのによい機会となります。

天気にめぐまれない時が長く続いて色との出会いも乏しい時は、たとえば七夕の染め和紙の色を眺めるのもよいでしょう。
上質な和紙の染め色は、同じ色でもどうしてこんなにも心へ働きかける力がちがうのだろうと不思議に思うことがあります。

空をあおいだり、様々な色の紙を手にとってみたり。
草木花の中にある繊細な色をじっと眺めたり。

7月は自分を癒す色との出会いの月。
空に花に、草木に和紙に、ぜひ探してみてください。

つなぐ花

可憐な桃色に染まるインドハマユウの花を白い瓶子に。

庭の隅で長い年月の間静かに笹藪の中でひっそりと、そしてたくましく命を繋いできた古い庭の花の一つです。

植えられていた位置は三箇所。
想像を膨らませれば、おそらくは群生する花を楽しみに眺めた人がいたことは間違いありません。

時を超えて人をつなぐ花。

枝垂れる大きな葉姿にも憂えと趣きがあります。

七夕の梶

梶の葉で素麺を包み、梶の樹皮で結びます。

宮中で古くに行われていた七夕の習わしをお題にしたしつらいです。

梶の樹皮は細く裂いて清らかな風情に。

天の川を渡る舟が無事、二星の逢瀬を叶えてくださいますように、そして同じように諸々の願いが叶いますようにと願うためのお供物として。

 

広田千悦子

文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

『花月暦』

『にほんの行事と四季のしつらい』

広田千悦子チャンネル(Youtube)

写真=広田行正