第九十三話 「八月 立秋 処暑」
2024.08.07
暮life
変わり目を楽しむ
8月に入り、夜明けの空気が変わりはじめました。
まだ太陽が顔を出す前に窓を開ければ、入り込む風はもちろんのこと、肌で感じる気配が今までとは違うことに気づき、心は動きます。
暑さが身体に滞留してついぼんやりと過ごす時間が多くなる頃。
「猛烈」ということばも足りないように感じる今年のような暑さでは尚のことです。
たとえば、夜明けに窓を開ける。
遠くの景色を眺める回数を増やす。
温かい飲み物を楽しむ。
いつもはしないことをしてみます。
何気ないように見える日々の中でも確実に動いている季節の気配を、まだ小さなその声を聞き取ることができるよう工夫を重ねていけば身体の中の季節も一新する流れへと動いていきます。
様々な場で大きな変化が続く時も、こうして変わり目の空気や景色、時の流れ方に意識を向けることがきっと役に立つことでしょう。
それでも孤独を感じる時は草木花とともにいる時間を多くして。
激動の中でも大らかに佇むすべを静かに伝えてくれることでしょう。
黄花と白瓶子
背高泡立草と黄の百合を瓶子に入れ境界に捧ぐ花に。
北の春の到来は遅いのに夏から秋への歩みは急ぎ足。
一足先に初秋へと進む 北の花です。
癖のない華やかさに、すっきりとした透明感。
あっという間に過ぎていく時の儚さを知っているからでしょうか。
黄色を合わせても圧迫感なく2種の花はやわらかに息を合わせます。
水の子供物
8月は月遅れの盆の月。
旧暦のお盆も今年は18日にやってまいります。
お盆は目には見えない精霊の旅をささえるためのしたくと、もてなしかたに思いを巡らせる時。
日本では自分のご先祖様や親しい人だけでなく、見ず知らずの今世ではご縁のないものに対してもお供物を捧げて祈る習わしがあります。
水の子供物はその一つのかたち。
古くからの決まり事は、家や地域、お寺さんにより様々ですが、基本は水、胡瓜、茄子、人参、南瓜、洗米などを取り合わせ、捧げ物とします。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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