第九十四話 「九月 白露 秋分」
2024.09.07
暮life
星のめぐり
猛烈な暑さに翻弄された後、やってきたのは不思議な動きをする台風でした。
見事なほどまでに幾度も予測を破り、被害を受けた方はもちろん、その歩みは様々なものを刻んでいきました。
いつも同じことが起きるとは限らないこと、そして今という時代が、平安時代や江戸時代のように想像を越えていくような災害が頻発する時代の星のめぐりの時にあることを誰もが受け入れざるを得ないようなことが今年はたくさん起きています。
こうしたいつもと違う様々な変化の中では不安になることも少なくありませんが、その一方でそういう中でも淡々と自分らしくあるために助けになることもたくさんあります。
驚くようなことがあってもどんな時でも静かな気持ちをすっと取り戻す、自分を導く方法は人ぞれぞれですが、私は自然の営みそのものである植物たちと過ごすことが支えになっています。
教えてもらうというよりはことばにはならないやりとりをしているうちに、いつのまにか自分も忘れていた気持ちや祈りたくなるような感情がふと蘇ったり、わけもなく喜びが湧き上がり、気持ちが満たされていくような時があります。
もしかするとそれは草木花だけではなく立っている地面から立ち昇る何かだったり、空から降り注いでいる目に見えない星の力だったりするのかもしれません。
災いをもたらすと同時に最高の恵みを与えてくれるもの。
この星に現れる両面の力をうけとめようと人々は祈りを捧げ、かたちに試みてきました。
今も息づいているのが年中行事や祭りの風習、生け花の中。
変化の時代とともにより心を深くして草木花と過ごしていく時間を持ちながら歩いていくことができればと思います。
鬱金を立てる
鬱金の花と葉を立てて自然の力を宿す依代に。
古くから生薬として人々の支えとなってきた力ある植物の花らしく存在感のある姿。
どこに置いても話しかけられているような空気を醸しています。
根はこっくりとした黄色を生み出す染料として世界を明るい黄色に染めてくれます。
仙人草の花
旺盛な蔓の手をどんどん伸ばし毎年咲く山の仙人草。
今年の高温多湿が身体に合うのでしょう、いつも以上に花は大きく白く、一つ一つの花のかたちも洗練されています。
全草に毒があるので取り扱いに気をつけなくてはならないのですが一見、毒のある花がよく持つ独特の雰囲気が見当たりません。
ありのままの素の美しさをいつまでも眺めていたくて蕾も花も落とさずに、透明感のあるものと合わせました。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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