第九十六話 「十一月 立冬 小雪」
2024.11.07
暮life
星降る下で
早くなった日暮れのあと。夜空に見える星の輝きは増して、冬の星オリオンが煌々と輝く、そろそろそんな季節を迎えてまいります。
そしてちょうど今時分の庭では、勢いよく翌春の準備をはじめたスイセンの芽吹きに出会います。
静かにゆっくりと、でも確実に強くなる冬の気配に身構えているものにとって、それは暗闇の中で灯る明かりのよう。
次の季節へと私たちが思いを繋いでいけるように、不安になる気持ちを支えてくれるかのごとく、芽吹いたり咲いたりする草花の姿があります。
私たちは、秋の実りに心が豊かに潤い、紅葉の色に奥深いところから胸は温まり、そしてたくさんの落ち葉や枯れゆく草花に切なくなることもあります。
知らないうちに毎年、私たちの心はくりかえし、季節の力に染まりながら暮らしているのです。
今年も12月を前にして、そろそろ一年をふりかえり、来年のことがだんだんとはっきりと目に入るようになってまいりました。
残りの年も新しい年も星降る下で草花の力に染まり、さまざまなものとの調和をはかりながら、まずは寒く厳しい季節を歩いていくことができればと思います。
御火焚きの花立
11月から12月になると大きな火を焚くことで太陽の力を蘇らせようと祈る、御火焚きという祭りや行事があります。
現在は神社やお寺で行うのが一般的で邪気ばらいとしての役割が多いようですが、古くは家々や村などの単位で行うことも少なくなかったものです。
それはともかく「火を焚くことで太陽の力を支える」という考え方にプリミティブな共感が湧いて、私は毎年、御火焚きの花立をします。
今年は依代のような松の枝に火色に見立てたセイタカアワダチソウの黄花、染まりはじめた南天の実を束ね、花器に立てました。
初冬の草花
空気が透明になっていく中、草花も透き通るような趣を見せています。
狗尾草、野菊、杜鵑草などなど。
紅葉にさきがけて様々な色を見せてくれる盛りの草花を白瓶子に入れて初冬に祈る草花としました。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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