第五十五話 「六月 芒種 夏至」
2021.06.05
暮life
田の景
水無月。
田んぼは輝く水鏡のように、空や景色を映し、夏のきざしが見え隠れしています。
二十四節気は、芒種、夏至と続いて、太陽の大きな分岐点がやってくる月。
新しくはじまった一年も、早くも半年が過ぎようとしています。
30日には一年の半分をふりかえり、そしてこれからやってくる新しい半年への思いを新たにする、「夏越」という大きな節目の行事があります。
今年は、湿度が高くなるのが早かったところが多く、さわやかな薫風は呆気ないほど、早々と去ってしまいました。
思いがけないほど、5月との別れが早くて、季節の境目が曖昧なままなんとなく時は流れ、取り残されてしまったような気分が残っている人も少なくないでしょう。
そんな時、奏でるように漂ってきて、自分らしいリズムに導いてくれるのが、栗の花、梔子の花、テイカカズラの花、泰山木の花、ネズミモチの花など、この時季特有の甘い香りです。
香りを楽しんでいると、空気も甘く感じるようになってくるものです。
梅雨時は苦手だなあと思う時もありますが、雨が多くなればなるほど、今までは見えなかった景色も見えてまいります。
湿り気を帯びた道は、やわらかい光を反射し、陰影とあいまって趣のある景色を生み出しています。
乾いた季節から、水の季節へ。新型コロナウイルスによる非日常の日々はまだ続きそうですが、そういう時だからこそ、今月も草木花に目を注ぐことを忘れずに寛ぎながら、歩いてまいりましょう。
サナブリのお供え
「サナブリ」は田植えを終えたあと、豊かな実りを祈るための行事です。
今回は、三束の早苗を精麻で結び、三宝にお供えしました。
稲苗の根を水できれいに洗うと、籾から根がたくさん出ています。
そしてその小さな種からは、青々とした茎が天に向かってまっすぐに伸びています。
サナブリのお供えを拵える度自分の中にも実りのちからが生まれるように感じています。
ネズミモチの花御供
たくさんの可愛らしい小花をつけているネズミモチの花が盛りです。
仏具の花立に入れて、つぼみと合わせ、さまざまな実りを祈るための花御供としました。
さわやかで甘い香りも素敵ですが、一番のお気に入りは、可愛らしい小さな花だと思っていけてみると予想以上に、主張の強い、入れごたえのある花であるところ。
心の淀みも晴らしてくれるような、純白の花です。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・歳時記研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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