第五十八話 「九月 白露 秋分」
2021.09.07
暮life
遠灯 とおあかり
涼やかな空気と共に、大気も清らかに澄んでまいりました。
この時節、海越しに見える富士山を眺めると所々にあかりが見える時があり、心安らぐものです。
景色の美しさはもちろん、薄暗い闇の中、遠くに灯りを見つけることができれば、心にも穏やかに、あかりが灯ります。
9月といえば例年なら、まだまだ残暑に悩まされる頃ですが、全身をじりじりと焦されるような体感も今年は、早々と忘れゆく道すがらに。
そこかしこに、涼やかなが吹いています。
疲れや悲しみがある時には、荷が重くなる前に、吹いてくるこの涼やかな風に気持ちを馴染ませ、ともに過ごします。
通り過ぎていくやわらかな秋風は、無理なく自然にさまざまなものを清め流してくれるように感じます。
今年のように、季節の節目の変化が大きい時には、自分の気持ちや身体を日々、こまめに回復する時間を持ちます。
風の流れ、季節のうつろいはもちろん、自然のリズム、そのものである草木花の力をいただいて。
そう遠くない冬への胆力をつけていくためにも心を温め、まめに自分のケアを心がけていきたい時節です。
月見のミキノクチ
ミキノクチは、瓶子や徳利にお酒を入れたところに葉や、紙、草木などをさしこみ、神聖な力を宿すためにしつらえるもの。
お月見だけにとどまらず、さまざまな行事に用います。
今回は月の美しい日、そして9月21日の十五夜を迎えるために奉書で折ったミキノクチに、野菊の葉、竹の葉、松葉などの時節の花を添えました。
永遠に輝くような月のよい力にあやかり、よい日々を送ることができますように。
六瓢と花縮紗
古くからある祈りのかたちとして、植物とことばの力を借りた、縁起物に「六瓢」があります。
六つの瓢箪を「六瓢」=「無病」として、病気が無い、病気をしないという意味のことばに掛けて力が通じるものとしたものです。
今回は、三宝に六瓢を並べ、芳香を放つ白い花、花縮紗(はなしゅくしゃ)*を添えて六瓢に香りと純白の力を合わせました。
祈りを捧げるという行為には人それぞれ、様々な意味を持ちます。
今回は、どんなことが起きても、よいものへと昇華できるように、という願いを込めました。
*花毎 注:ジンジャーリリー
仙人草の花
果実に実の成り具合が良い年と、そうでない年があるのと同じことが花にもあるのでしょう。
踊るように自在に手を伸ばし咲く仙人草*が、今年はあちこちで咲き誇り、それは見事です。
勢いを少しでも、お裾分けいただけますように。
*花毎 注:日本の原種クレマチスの一種
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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