第六十話 「十一月 立冬 小雪」
2021.11.07
暮life
紅葉のちから
こよみに現れた「冬」ということば。
明らかに今までとは違う季節の感触に触れながら吹いてくる風の冷たさの中に忍び込むものを確かめて変化を少しずつうけとめていく。
今年もそんな季節がやってまいりました。
家のまわりでは、常緑の木々の中、黄葉したヤマノイモの葉が、小さな炎を灯すような首飾りに。
道を歩いていても自然と暖かな色に染まる草木に目がとまります。
豊かな彩りを見つけて歩けば、ほっとひと息つくのにちょうどよい羅針盤になるでしょう。
鳥や犬、猫たちは、こまめに陽だまりの中。手足や羽をうんと広げて太陽の力を身体に蓄えているように見えます。
本格的に寒く、厳しい季節を目の前にして、今は休息、そしてメンテナンスの時。
暖炉の火で温まるように、色づく草木をたっぷりと眺めて冬支度をします。
大きな変化を目の前にしている時、その最中にある時は、たちどまり、自然を感じるほんの僅かなひと時が、時の流れやめぐりを変えていきます。
紅葉に包まれる今は、自然と出会うのによい時。
大きな森の紅葉も、見上げる街路樹の紅葉も部屋の中で色変わりする草木も同じ力を持っています。
時の流れをゆったりとさせる、大きな力。
初冬の草木花が、手招きするように、あちらこちらで私たちに声を掛けてくれています。
帰り花
晩秋から初冬にかけて楽しみなのが、帰り花との出会いです。
今年はお馴染みのつつじ、桜と合わせて、椿の帰り花に驚かされました。
どの帰り花も、季節外れの迷い子のせいか、花びらは儚く、淡く、散りやすいもの。
他の花とは異なる道を選んだ庭の山桜をそっと家に連れ帰り、赤く染まり枯れゆく照り葉と合わせ仏具に入れました。
櫨と紫菊花
櫨(はぜ)がそろそろ葉を落とす前。
熟れた紅葉の色が見事です。
実るようにふさふさと豊かに咲いて盛りを迎えた紫菊花(しぎく)「もってのほか」と合わせ、瓶子に入れました。
梶の照葉
七夕の頃、青々と見事な梶の葉が、紅葉し、美しい彩りを見せています。
潔く葉を落としてしまう前に赤く色づいた草木を合わせて照り葉のしつらいに。
めぐりゆく季節の旅路に心からの感謝を込めて。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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