第六十一話 「十二月 大雪 冬至」
2021.12.07
暮life
冬景色
紅葉の色がだんだんと薄くなってきたなあ、と眺めているうちに今年の秋も過ぎ去っていきました。
木々が枯れ葉になるまでの時間を、できるだけゆっくりと楽しんでいようと思っていたのに、ある日強い北風が突然吹いてきてあっという間に冬景色に。
まだもう少し楽しめるだろうと思い込んでいた昨日までの美しい葉色は何処へ。
1日ですっかり季節は変わってしまいました。
素敵だな、いいなと思うことに出会ったときは、今度時間のある時にとか、またいつかねと、思うのではなく、そう思ったその時、たとえ3分しか時間がなかったとしても気持ちだけは十分にはたらかせて時を過ごすことを心がけたいものです。
たっぷり時間がないと無理、と思ってしまいがちではあるけれど、そんなささやかな機会をちょっとずつ重ねていくことで、あたたかなものに日々は包まれていきます。
素の自分の思いとともに過ごす時間は心に残り、繰り返し思い出されます。人生で大事な場面となるのは、過ごした時間の長さだけでなく、心に届いた深さなのかもしれません。
12月は毎年、忙しない気分になり、自分のペースを保つのにいつもより気持ちを使います。
賑やかな年もあれば、静かに過ごしたい年もあります。
いつでもどんな月でも、世の中の空気に流されすぎず、自分の気持ちに寄り添い暮らすことを大事にしたいものです。
特に、大波がざぶんざぶんと繰り返し訪れるような今のご時世、世の中の空気は、さまざまな刺激に満ちています。
そんな時、冬、葉を落とした身近な草木や植物を見るのはよいものです。
いつのまにか高くなった木の背丈は、たおやかに流れる時間をふり仰ぐひと時になり、枝葉を落とした木々は幹や枝の素のさまがあらわになり、天と地をつなぐように立つ力強さが心にとまります。
おだやかな時の流れをあじわう時間があれば、自分を含めてさまざまなものに、時間をかけてはじめて生まれるものもあるんだ、という気持ちが自然に湧いてきます。
凛とした空気の中、自分とともにいて、ゆっくり過ごすにちょうどよい季節、冬が今年もやってきました。
冬至の柚飾り
太陽の祭り、冬至のお供物に柚飾りを。
太陽の化身のようなあたたかな色と香りを放つ、大ぶりの柚の実を藁に結び、姫榊と稲穂を添えました。
冬枯れの中で、黄金色の実をつけ、冬を彩る柚の木。
早々と日が落ちて暗くなった部屋の中に置いてみるとその力を知ることになります。
祝い松
クリスマスとお正月のために、祝い松を仕込みます。
今年の祝い松は、大きな黒松の枝をいただいて芯に黒竹を結び、金色の竹を添えました。
見えるところも、見えないところにも花のある年になりますようにと願いを込めて、餅の花は多めに。
蓬莱
蓬莱、おてかけなど と呼ばれた古くからのお正月のしたくです。
縁起物のかちぐり、新米、昆布、赤い実などをしたくします。
今年の我が家の蓬莱は、宝船に入れました。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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