第六十二話 「一月 小寒 大寒」
2022.01.05
暮life
ひかりと暗闇
今年の冬は、ゆく年と新年をつなぐように厳しい寒波が訪れて、寒さに身を縮こまるような日が多くなりました。
ただ、その冬らしい日々も長く続くうちに、少しずつ慣れていくものです。
それでも冷たい空気の中で、草木花に触れればひんやりと冷たくて、思うように手は動きません。
指も曲げたり伸ばしたりストレッチをしてあたためたり、動かしたり。
いつもとは違うしたくがいります。
その一方で、頭や心は冴え冴えとしてくるようでつめたい空気との相性がよいように思います。
寒さ極まる「寒」の時期には、強くなる力もあります。
さて、古くは二ヶ月間ほど続く祭りだったお正月も現在は三が日、もしくは七日間の松の内という方が一般的でしょう。
しめ縄やお飾りをはずしてしまう前に、その由縁などについて、気持ちだけでも少し思いを巡らせてみるのもよいものです。
現在はお正月といえば、とにかくめでたいもの、お祝い、縁起のよいものといったものがずらりと並び、ふくふくしいもの一色という印象ですが、古い時代には、お正月にやってくる神さまは、福や幸いをもってきてくれる存在だけでなく、災いや疫病をもたらす禍神などもやってくる、と考えていた節があります。
しめ縄は災いの神を入れないようにするための境界線でもありました。
正月だけでなく日本の行事の習わしを眺めていくと、このように、福を運ぶものと災いをもたらすもの、ひかりと暗闇など、ものごとの両面をうけとめてきたのだと感じるものが少なくありません。
自然はめぐみをもたらしてくれるものであると同時に、時に地震や噴火、津波など、災害をもたらすものであるという、感謝と畏敬の念の両方の力があることを肌で感じてきたという背景があるのでしょう。
現代に生きる私たちの中にも脈々と受け継がれているだろうその流れを時折呼び覚ますためにも、行事や季節の楽しみを草木花とともに楽しむ時間をとりながら、さまざまな流れの海を泳いでいければと思います。
新年の山茶花
桃色の山茶花を仏具に入れて。
季節の風をうけとめてきたような枝の流れとともに厳寒の一輪をいれました。
晩秋から長く咲いて、道ゆくものの心に火を灯してくれる花の一つ。
冬の山茶花です。
祝小正月 山桜の餅花飾り
小正月のために、山桜の餅花飾りを。
山桜の枝が落ちる頃。
かたちのよいものを選び、餅の花をつけて。
結んだ藁に挿れ、熊笹、姫榊を添えて。
実りを祈る稲穂はたっぷりと。
1月15日は小正月。
本来はこの日のあたりに、家々でのお正月の祭りを行っていたのではないかという頃。
旧暦の1月15日は2月15日ともう少し先になります。
いくつもの暦を使い、それぞれの季節をその時々の人生にあわせて味わうのも現代ならではの季節の味わい方ではないかと思います。
氷と椿
厳寒の冬、美しいものは霜と氷。
椿の花がちょうどよい具合に庭の氷に落ちて。
空と草木など、鏡のように世界を写します。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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