第六十三話 「二月 立春 雨水」
2022.02.04
暮life
光のなかで過ごす
季節の持つ力を強烈に運んできた冬がそろそろ過ぎ去ろうとしています。
永遠に続きそうな厳しい寒さとも、もうすぐお別れ。
ふと気がつけばあふれるように部屋を満たす光の眩しさ、遅くなったなあと感じる夜の訪れ。
冷たい空気の中で感じる明るくあたたかなもののきざしは身体だけでなく心にも滋養をもたらすものです。
眩しい光に出会ったら宝ものをみつけた時の子どものように無邪気にその中で過ごすのが吉。
こわばり固くなっていた手足をお風呂の中でふう、と深い呼吸と一緒に存分に伸ばすときのように。
2月の光は眩しいけれど強すぎずふくらむようにやわらかくて、お日さまのひかりが草木花だけに限らず、人間にとっても欠かせないものなのだと思い出すことでしょう。
また、幼い頃のように地面にしゃがみこみ、土いじりを楽しむ時の格好で背中に光を浴びるのが芯から体をあたためるに何よりの方法だと教わったことがあります。
温かなひかりを背中に存分に浴びることで、人間の身体の大切な場所、脊髄をあたためます。
今年も光や草木花と過ごす時間を少しずつ増やして長く続く疫病の災いに力を蓄え、新しい季節へと歩いてまいりましょう。
祝松 旧正月を祝う
黒松に梅の花枝を結び旧暦の正月を祝う、祝松に。
今年の旧暦の元日は2月1日。
中国など他の多くのアジア人と同じように日本も旧暦でお正月を迎えていた時代が長く続いていました。
目まぐるしいような時代の流れの中にあっても自分のペースを見失うことなく季節を味わいたいから、毎年、私は新暦のお正月と合わせて、旧暦に二度目のお正月を楽しむことにしています。
梅花依代
白い瓶子に梅の大枝を挿れて明暗の光の中に。
光をもとめて伸びる枝の動きをそのままに瓶子にいれて、見えないものが宿る、花の依代として。
今年の梅の花は香りが強いように思います。
春告花に感謝を込めて。
玄米茶の大福茶
旧暦の新年の福招きに大福茶*を。
今年は風味良く多めの炒り玄米に、とっておきの梅干しを。
熱々の福をいただいたあとは茶殻ごとお茶漬けに、あるいは茶殻の天ぷらがおすすめです。
ほんわりと灯る明かりのような蝋梅の枝を添えて。
*大福茶(おおぶくちゃ)
平安時代から伝わる、健康を祈願して新年などに飲まれる茶。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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