薔薇のすすめ

東京・練馬にある「四季の香ローズガーデン」から、
季節とともに移ろうバラの様子や育て方のヒントをレポートします。

第六話 「薔薇の育種」

2020.01.21

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「ラブ・シック」Love Sick 作出年:2019年│作出者:忽滑谷史記│作出国:日本│系統:シュラブ│咲き方:四季咲き│花径:中輪│香り:強香(ダマスク/ティー)

冬はバラの剪定や誘引作業など、次の春に花をたくさん咲かせるために準備を行う時期になります。
今回は、花がお休みの季節のため、バラの品種がどのように作られるかお話したいと思います。

バラは、これまでに何万種という品種が作られてきた植物です。
これほど多くの品種が作出されて記録にも残されていることは、今に至るまで長い間人々に愛されてきた花であることを示しているように思います。
現代でも育種は盛んであり、毎年春や秋にはたくさんの新品種が発表されて販売されています。

植物において、品種の改良をして新しい品種を作り出すことを育種と言いますが、バラの育種は、品種同士を交配して行います。
雌しべに花粉をつけて、種子を作り、それを種まきすることで新しいバラを作り出します。

育種を行い新しい品種を作る人は、育種家と呼ばれます。
育種家は、まずどのようなバラの作出を目指したいか目標を設定します。そして、どのバラとどのバラを交配すれば目標に近い個体を得られるかを考えて、種子親と花粉親を選びます。

花の大きさ、香り、色、形、病気の強さなど、花にどの性質を求めるかは時代によっても違いますし、育種家によっても異なります。
四季咲き性のバラがなかった時代には、それが求められ続けた時代もありました。
黄色いバラがなかった時代に、黄色いバラを目指した育種家もいました。
青いバラを目指してひたすらにそれだけ作り続けた方もいます。
作られる花には、時代背景や育種家の個性が強く出て、そこがバラの面白いところでもあります。

〈5月ごろ〉
交配の作業は、春に咲く花で行います。
バラの花には中心に雌しべがあり、それを囲むように雄しべがあります。
種子親として実をつけさせたい花の花弁を剥いて、雄しべを取り除きます。
このように中心の雌しべが残ります。

花粉親に用いたいバラの雄しべ(葯)を集めます。

葯を何日か乾燥させると、黄色い粉のような花粉が出て来ます。
この花粉を、さきほど雄しべを取り除いた種子親の雌しべに付けて、受粉させます。

〈6月ごろ〉
受粉が成功した場合、しばらく経つと実がだんだんと膨らんできます。

〈11月ごろ〉
実は秋になると赤やオレンジに色づいてきます。
このようになると熟したしるしで、落ちないうちに収穫をします。

〈1月ごろ〉
実から取り出した種子。
冬の間に種まきをします。

バラの種子が発芽するためには、90~120日程度の低温にあたることが必要です。
これは自然界において、秋に落ちた種子が春になって芽が出てくるのと同じで、長い進化の過程で身に付けた性質なのでしょうが、よく出来てた仕組みであると思わざるをえません。

また次回、播いた種はどのようになるのかをご紹介します。

忽滑谷 史記(ぬかりや ふみのり)

バラ育種家。埼玉県飯能市を拠点に、オリジナルブランド『Apple Roses』品種の育種・生産およびネットショップでの販売を行う。病気に強く誰でも簡単に育てられる、魅力的な品種づくりを目指している。