第十六話 「選抜」
2021.08.23
知study
「ピース」Peace 作出年:1945年│作出者:Francis Meilland│作出国:フランス│系統:ハイブリッド・ティー│咲き方:四季咲き│花径:大輪│香り:中香(ティー)
暑い夏の間にも、バラは旺盛に成長を続けています。
ただ、高温のために花がすぐ終わってしまい、綺麗に咲きにくい季節です。
暑い日が続くと、花持ちのよい秋のバラのシーズンが待ち遠しくなりますね。
さて、今回はバラの育種の中でも重要な過程である「選抜」についてお話ししたいと思います。
バラの品種改良は、品種と品種を交配して、出来た種子をまくところから始まります。冬に種をまき、発芽したバラが少しずつですが大きくなってきました。
母親と父親、同じ組み合わせで交配したバラであっても同じものができることはなく、実に様々な性質に分離します。
これは、バラが改良を重ねられた結果、複雑な雑種となっているためですが、誕生した子どもの性質の分布から、親の遺伝子をある程度推測できることが育種をしていて一番面白いところです。
四季咲き性のバラが開花した試作の苗
春から秋まで繰り返し咲く、「四季咲き性」を持っている品種では、このようにまだ小さい苗であっても開花します。
画像の苗は春から直径7.5cmのポットで育てているものです。
試作する苗はたくさんあるため、その中から優秀な株を選ばなくてはいけません。
その過程が「選抜」と呼ばれます。
鉢のままでは本来の花姿や耐病性など、株の特性を細かく見抜くのが難しいため、苗を畑に定植して大きく育てながら性質をチェックしていきます。
忽滑谷さんのバラの試作畑
こちらは昨年、畑に定植したバラです。1年が経ち、旺盛に茂ってきています。
この畑で花の美しさ、花持ち、花色、香りの良さ、病気の強さ、樹勢の強さなどをチェックしますが、株に対しての花の大きさや、バランスの良い樹形で生育するかどうかも見極めます。
試作中のバラの数々
花の美しさ、香りの有無、耐病性は、特に重視したい項目です。
三拍子揃った品種が出来ればいいのですが、花が美しく、病気にも強いのに、香りがない、というようなことはよくあります。
バラを育種していてよく感じるのですが、まるでカジノのスロットマシーンのようなもので、3つの「7」はなかなか揃いません。
ただ、運が良くなければ良いものが出来ないというわけではなく「7・7・7」が出る確率が少しでも上がるように導くのが、育種家の仕事だと思っています。
黒星病が発生したバラ
バラで問題となる病気に、うどんこ病と黒星病がありますが、上の画像のバラは長雨の影響で黒星病が発生してしまいました。
耐病性は、品種の育てやすさにおいてとても重要であるため、念入りに確認をしていきます。
バラは病気に弱いという印象をお持ちの方は多いと思いますが、近年では品種改良も進み、かなり病気に強い品種も出始めています。
ただ、そういった品種は、花の美しさがやや足りなかったり、良い香りを持っていなかったりと、完璧なバラを作るのは簡単ではありません。
病気の強さと、花の美しさを併せ持つ品種を作出するのが、以前からの私の目標です。
試作中のバラの数々
また、品種としての目新しさや、今までのバラではなかった性質を持つことも重要です。
「育種」は「品種改良」という言葉とほぼ同義語だと思いますが、つまりは品種を改良することだと思います。
既存の品種に対して、どの点を改良したいのか、どのようなバラを作りたいのか、そのためにはどのような戦略を練るのか、それらを自分の中できちんと整理して持っていることが重要だと思っています。
接ぎ木して増殖させた試作バラ
選抜したバラは、さらに野バラに接ぎ木をして増殖し、複数株の成長を確認します。
最終的に、納得のいく試作を、品種として発表していくことになります。
これから秋にかけて、来年発表する品種の苗の生育、花姿を最終確認しているところです。今回掲載した試作の花の中にも、今後発表をする品種があるかもしれません。
結実したバラ
こちらは、今年の5月頃に受粉の作業を行った実ですが、2~3か月経ち、大きくなってきています。
うまく結実しなかったものや、生育不良により肥大ができなかったものは枯れていきますので、その成果に一喜一憂しながら大切に育てています。
今年も秋に多くの実りを迎えて、来年たくさんの新しいバラに会えますように。
忽滑谷 史記(ぬかりや ふみのり)
バラ育種家。埼玉県飯能市を拠点に、オリジナルブランド『Apple Roses』品種の育種・生産およびネットショップでの販売を行う。病気に強く誰でも簡単に育てられる、魅力的な品種づくりを目指している。
- 花毎TOP
- 知 study
- 薔薇のすすめ