第七話 「続・薔薇の育種」
2020.03.17
知study
「ストーリーライター」Storywriter 作出年:2013年│作出者:忽滑谷史記│作出国:日本│系統:シュラブ│咲き方:四季咲き│花径:中輪│香り:強香(フルーティー/ティー)
前回にひき続き、バラの品種がどのように作られるかお話したいと思います。
バラの育種をしている会社は、毎年何万粒という膨大な数の種子を播きます。
その中で発表されるのは各会社で毎年3品種程度ですから、発表まで残った品種はすごい倍率の中で選ばれてきたことになります。
バラの園芸品種を交配して種から育てると、花形、花色、香り、樹形、樹勢、耐病性などにおいて実に様々な特性のものができます。
その中から、優れた形質を見抜き、選んでいく作業を「選抜」と言います。
たくさんの中から性質の良いものを選び出させなくてはいけないため、育種家の選抜眼が問われます。
育種の過程において、育種家は自分の目標とするバラを作るためにどのような交配を行うか計画し、それに沿って選抜を行います。
作りたいバラは育種家にとってそれぞれ違うため、発表した品種にも育種家それぞれの個性が出るのが面白いところです。
〈3月ごろ〉
冬の間に播いたバラの種は、2月から3月ころになると発芽してきます。
バラは双子葉植物であり、縁に微かなギザギザのある子葉が出て来て、そのあと本葉を展開します。
新たな生命の芽生えに愛おしさを感じるとともに、どのような花を咲かせてくれるのか期待が高まります。
〈5月ごろ〉
四季咲き性を持つ個体は、種播きして迎える次の春にすぐに花が咲きます。
まだ株が小さいため、咲かせる花も本調子ではない小さな花ですが、その姿からはどことなく交配親の雰囲気が感じられて面白いです。
ここからは、時間をかけて株を大きくしていきます。
鉢で大きく育てたり、畑に定植して育てたり。その過程の中で、花の形などの花の性質、病気の強さなどの、樹の性質を見極めて選抜の作業をしていきます。
そして数段階の選抜作業の末に残ったものが、ようやく世の中に発表されます。
いくつか私の未発表の試作中のバラを紹介します。
これは、青色系を意識して作出した花です。
青紫色の花はとても雰囲気が良かったのですが、樹の性質が弱くて発表を断念しました。
フリルがかかる淡いピンクで、香りも良い花。
10年前に作ったものでそれなりに綺麗な花ですが、発表の決め手がないまま保留にしています。
一般的なミニバラよりも、さらに花が小さいマイクロミニチュアローズ。
変わり種ですが、こういうバラをもっと作っても面白いのではないかと思っています。
私が20年くらい前に初めて交配をして播種した年に、一番始めに開花をした個体です。
始めて自分の花が咲いた時の感動は、今でも覚えています。
ハチミツのような甘い香りがする花で、記念に大切に育てています。
これも保留にしているバラです。
耐病性や樹勢を調査している段階です。
花形、花色もよく、香りがものすごく強いので、期待しています。
誰にでも育てやすく、美しいバラを作るということが、私の育種目標です。
花が綺麗というだけのバラはできるのですが、ただその中でも、香りが良く、病気に強く……と、すべての性質において完璧なものはなかなか現れません。
育種は地道で大変な作業ですが、それ故に良いと思うものが作れたときの喜びはとても大きいです。
今年はいったいどんな花に出会えるのか、今から楽しみにしています。
忽滑谷 史記(ぬかりや ふみのり)
バラ育種家。埼玉県飯能市を拠点に、オリジナルブランド『Apple Roses』品種の育種・生産およびネットショップでの販売を行う。病気に強く誰でも簡単に育てられる、魅力的な品種づくりを目指している。
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