第十二話 「バラの接ぎ木」
2020.10.23
知study
「ストロベリー・スウィング」Strawberry Swing 作出年:2020年│作出者:忽滑谷史記│作出国:日本│系統:フロリバンダ│咲き方:四季咲き│花径:中輪│香り:強香(ダマスク/フルーティー)
秋のバラの季節になりました。
意外とご存じではない方もいらっしゃるのですが、バラは春と秋に見ごろを迎えます。
冬の間に休眠をしているバラは、春の5月中旬から6月中旬くらいに綺麗な花を咲かせます。
気温が暑い夏の時期は花があまり綺麗に咲かないのですが、気温が下がってくる10月下旬から11月下旬あたりに再び見ごろを迎えます。
ちょうど今、各地のバラ園で、綺麗な花が咲いています。
秋のバラを見に、お出かけをするのも楽しい季節になってきました。
さて、本題ですが、今回はバラの接ぎ木についてご紹介しようと思います。
接ぎ木とは、丈夫な株の上に、品種の芽や枝を接いで育てる生産農家の育苗のテクニックです。
バラの場合は野バラに接ぐ場合が多いです。
日本では、日本の野バラ(ロサ・ムルティフローラ)のとげなし選抜種を用いる場合がほとんどだと思います。
台木となる野バラ
こちらが、春から育ててきた畑の野バラです。
今使っているのは‘マツシマ’と呼ばれる系統です。
この野バラに、毎年9月から10月にかけて接ぎ木を行います。
野バラの株元です。
この株本がまっすぐスラっとしているほうが接ぎやすいので、そのように育てています。
株元は清潔にした方が、活着率が上がるため、綺麗に汚れを拭きます。
まず、接ぎ木用のナイフを使って、Tの字のように切れ込みを入れます。
私は素手で作業を行っていますが、油断をするとナイフは手を傷つけますので、十分な注意が必要です。
切れ込みから表皮を両サイドに開きます。
開いたところです。
ここに品種の芽を入れていきます。
接ぎたい品種の芽を、ナイフを用いて切り取ります。
芽に付いている白い部分を取り除き、先ほどの開いた台木に差し込みます。
余分なところを切り落とし、接ぎ木用のテープを巻けば作業完了です。
形成層同士が密着することで、カルスができて接合する仕組みになっています。
この方法の接ぎ木は「芽接ぎ」と呼ばれます。
私は現在すべてのバラをこの方法で接ぎ木して生産をしています。
他の接ぎ木の方法では、冬の間に枝を行う「切り接ぎ」もあります。
ただ、根頭ガンシュ病のリスクが高いため、そちらは行わないようにしています。
このようにして接ぎ木をした苗は、冬の間に鉢に植えられて、「新苗」として春に販売されたり、畑に定植して「大苗」として翌秋に販売されたりすることになります。
植物同士をくっつけてしまう接ぎ木、最初に試した人もすごいですし、それを伝承して方法を定着してきた人類もすごいなと思ってしまいます。
このような作業は、作業者の性格が出やすい作業です。
私の場合は手を抜けない性格なので、1本1本丁寧にやってしまいます。
それもあって、一人で一日に接げるのは200~300本くらい。
一本一本手作業なので、なかなか根気のいる仕事です。
でも、来年につながる、希望のある仕事でもあります。
この作業は11月に入ると台木の皮が剥けなくなってきて活着率が下がるため、時間との勝負になります。
私も、11月になったら秋のバラ園を堪能できるように、10月いっぱいまで働き尽くめですがもう少し頑張ろうと思います。
それでは、皆様、秋のバラをぜひお楽しみください。
忽滑谷 史記(ぬかりや ふみのり)
バラ育種家。埼玉県飯能市を拠点に、オリジナルブランド『Apple Roses』品種の育種・生産およびネットショップでの販売を行う。病気に強く誰でも簡単に育てられる、魅力的な品種づくりを目指している。
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