第一話 「バラのある暮らし」
2019.08.14
知study
切り花としても流通しているガーデンローズ「イブ・ピアジェ」
みなさんは「薔薇」というと、どんな植物を想像しますか? 多くの方にとって最も身近なバラは、切り花としてのバラではないかな、と思います。
母の日、記念日、プロポーズ、卒業式、様々な祝い事のシーンで贈り贈られる切り花。
人生の区切りに使われる花は、その瞬間を引き立てるとても特別な存在ですね。
日常の中でも、花屋さんで切り花を購入される方も多くいらっしゃると思います。
テーブルの上に、たった一輪の花を飾るだけでも不思議と空間に温かみがでます。
私の作出品種のバラ「パブ・ロック」と草花を合わせたブーケ
バラは切り花として広く流通していますが、ガーデニングの主役として扱われることが多く、古くから人々に愛されてきた、愛好家の多い植物でもあります。
現在の日本でも各地にバラ園があり、春と秋の見ごろの時期には多くの方々でにぎわいます。
また、バラはベランダのような場所であっても、鉢植えで育てることができます。
育てるのが難しそうと思われがちですが、実は、コツをつかめばそれほど難しくはありません。
新しい芽を伸ばし、葉を展開し、蕾を付け、バラは日々変化をしていきます。
少しずつ成長していく様子を見守り、綺麗な花が咲いたときには、他では得ることのない喜びが得られることでしょう。
古くから栽培されている銘花「ラ・フランス」
「薔薇のすすめ」では、みなさまにガーデンローズを少しでも興味を持っていただけるよう、歴史や育て方など、様々な魅力をお伝えしていけたらと思います。
植物の中でも特別な存在であるバラのある暮らしは、あなたの日常をより確実に豊かにしてくれるでしょう。
女優に捧げられたバラも多くある「イングリッド・バーグマン」
■ 野に咲くバラ
バラは植物の中でも特に人気が高く、古くから長い年月をかけて育種改良が重ねられてきました。
そのため、現代のバラは野生種と比較すると花の形が大きく変わっています。
野生バラの花色は、白やピンクのものがほとんどです。
真紅のものや、黄色いものは、ほぼありません。
花は一重で小さめのものが多く、春にしか開花しないものばかりです。
それでも、現代バラを見慣れていると、野生種の儚げな美しさに見とれてしまうこともしばしばあります。
ヨーロッパで自生する野生種の「ロサ・カニナ」
西洋では、熟した野バラの実をローズ・ヒップと呼び、ハーブティーやマーマレードの材料として日常的に使われています。
バラが、古くから生活の中で密着した存在であることが感じられます。
「ロサ・カニナ」の実、野生種のバラは秋に綺麗な実が付くものが多い
このように野生バラが自然界の中で様々な種に派生していき、人々が利用して、少しずつ新しいバラへと改良されてきました。
そして、長い年月を経て、品種改良の技術の発達とともに、現代バラのように花が大きく、花弁数が多く、春から晩秋まで咲き続ける四季咲き性の品種や、豊かな香りを持つ品種が誕生したのです。
実は日本にも様々な野生のバラがあります。
例えばノイバラ(野茨/ロサ・ムルティフローラ)は、野原や河原など様々なところに自生しています。
2~3mほどの大きさになって茂り、春には白い小花を一面に咲かせます。
日本の野ばらであるノイバラ(野茨/ロサ・ムルティフローラ)
ノイバラは古くから人々に馴染みのある植物であり、文章に残る記録としては「万葉集」巻20に収められている、丈部鳥(はせつかべのとり)が詠んだ和歌に登場します。
『道の辺(へ)の 茨(うまら)の末(うれ)に 延(は)ほ豆の からまる君を 離(はか)れか行かむ』
道端にある野薔薇に、絡まる豆の蔓のように別れを惜しむあなたを残して、私はきっと旅立たないといけないのであろう……
ノイバラは、赤く小さい沢山の実が付き、花材としても用いられる
バラは西洋のものと思われがちですが、日本でも遥か奈良時代から人々の暮らしに身近な存在だったのは意外ですね。
ノイバラは、鳥が実を食べて種を運ぶため、街中でも思わぬところから生えていることがあります。
ぜひ探してみてはいかがでしょうか?
忽滑谷 史記(ぬかりや ふみのり)
バラ育種家。埼玉県飯能市を拠点に、オリジナルブランド『Apple Roses』品種の育種・生産およびネットショップでの販売を行う。病気に強く誰でも簡単に育てられる、魅力的な品種づくりを目指している。
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